研究課題/領域番号 |
25285217
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研究機関 | 福山市立大学 |
研究代表者 |
斎木 喜美子 福山市立大学, 教育学部, 教授 (30387633)
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研究分担者 |
泉水 英計 神奈川大学, 経営学部, 教授 (20409973)
喜久山 悟 熊本大学, 教育学部, 教授 (50273876)
三島 わかな 沖縄県立芸術大学, 付置研究所, 研究員 (60622579)
近藤 健一郎 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (80291582)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 戦後沖縄 / 日治期台湾 / 戦後八重山 / 文化史 / 教育史 / 美術史 |
研究実績の概要 |
本研究は、昭和初期に日本統治下の台湾に渡り、終戦まで台湾で沖縄学研究や文化・文学活動、芸術活動を展開していた川平朝申(1908-1998)に着目している。川平は終戦後郷里に引き揚げて後、米軍占領下の沖縄で文化行政に携わる一方、戦争によって多大な被害を蒙った沖縄の文化復興に尽力した人物である。川平に着目したのは、戦後沖縄文化復興を担った人々の中には、川平のように日本統治期の台湾での文化体験を有する人物が多く、こうした体験の意味を問うことが、戦後沖縄文化のありようを読み解くことにつながるのではないかと考えたからである。 そこで本研究では、川平に基軸を据えつつ、同時代に沖縄の教育・文化の復興に関わった人々の著作物や実践記録など基礎資料の収集と整理、及び内容の分析と彼らのライフサイクル研究等を総合し、川平との関係を通して戦後沖縄の教育・文化・思想史の全体像を解明しようとしてきた。従来の沖縄研究では見落とされがちであった個人の芸術や文学、教育活動を周縁の人々の活動や影響も含めて考察していくことで、戦後沖縄の文化・教育の歴史をより立体的に描くことを目指しているのである。 本年度の研究成果としては、川平の台湾での文化活動と映画制作との関わり、戦前戦後の放送文化に果たした川平の役割等について明らかにするとともに、川平関係資料の史科学的考察を行なってきた。また引き続き川平資料の整理とデータベース作成に向けての準備も進行しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度計画した研究は以下の点で評価できる。 ①各研究メンバーが各自の研究課題に基づいて台湾、八重山、沖縄、奄美大島等へ資料調査や聞き取り調査に赴き、川平朝申の作品や文化活動の実態を把握するとともに、台湾帰還関係書類を確認するなど、基礎資・史料調査が順調に進んでいること。 ②川平とほぼ同時期に台湾で公学校の教師を務めるかたわら文化活動に関わり、戦後は沖縄の児童文学を執筆していた文化人の一人である古藤実冨(1906-1961)について、台湾で資料調査を実施した。その際、未見であった公学校時代の作品や履歴に関わる新資料を発掘することができたこと。 ③研究成果発表としては、論文3、学会発表1、研究会での研究報告1ということで、各研究メンバーが成果をまとめつつある。戦後沖縄美術会と川平との関わりについての研究がやや遅れがちであるが、6月の研究会で2年後を見据えた研究報告書の章立てについても検討予定であり、期間内に研究の全体像を示せるのではないかとの見込みもたったため、この評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年同様、今年度は引き続き川平朝申関連の資・史料調査、収集と内容の分析を行う予定である。具体的には以下の通りである。 ①台湾における川平の文化活動に関する資料調査。ここではそれぞれの研究メンバーの問題関心に基づいて、台湾放送局時代の川平の児童劇や音楽番組制作資料、児童文学作品、芸術活動及び作品などについて、文献だけでなく新聞・雑誌等も調査し、実態を把握する。 ②川平の実弟の川平朝清氏、子息の朝哉氏はじめ、戦前戦後の川平の活動を知る人々に聞き取り調査を行う。とりわけ、沖縄に引き揚げてのちの活動に焦点を当てて研究を進める。これも研究メンバーの課題により、戦後の台湾からの沖縄人引揚者による文化・芸能活動と川平との関わり、戦後初の放送局立ち上げや、映画作品公開において川平が果たした役割、「沖縄児童文化協会」立ち上げや沖縄昔話の再話など、児童文化・文学に関する資料調査、戦後沖縄民政府文化芸術家技官たちの活動と川平の関わり、米占領期沖縄の文化状況の整理と文化史、戦前から戦後にかけての沖縄教育史のまとめなど多岐にわたる事項を想定している。 ③日治時代の台湾総督府資料、文化政策関連資料などから川平に関する事項について調査しまとめるとともに、台湾公学校での教育や文化の状況や課題など、川平の台湾時代の社会や文化、教育的背景についての研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本科研の構成メンバーは研究分担者と研究協力者がほぼ半数となっているが、昨年度は研究協力者の本務の都合等により海外調査予定が国内調査のみとなり、研究費の支払い請求が当初の予定よりも少なかったことがあげられる。また、研究代表者の校務の都合により全体の研究会開催がなかったために旅費の支出が当初見込みよりも少なかったことが要因として考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は沖縄での研究会を2回程度予定しており,また研究成果の発表のための学会出張や研究協力者の海外資料調査も予定されている。また,不二出版から復刻された現代沖縄史関連の書籍も購入の予定があるため,そのための費用として支出予定である。
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備考 |
川平朝申研究会において、研究協力者の松田良孝が「川平朝申が見た「八重山移民」-19564年の取材メモを繙きながら」(於:沖縄県立芸術大学、2015年2月21日)を口頭発表した。
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