研究課題/領域番号 |
25285239
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
吉田 文 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (10221475)
|
研究分担者 |
村澤 昌崇 広島大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (00284224)
濱中 淳子 独立行政法人大学入試センター, その他部局等, 准教授 (00361600)
二宮 祐 日本工業大学, 工学部, 講師 (20511968)
田中 正弘 筑波大学, ビジネス科学研究科(系), 准教授 (30423362)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 大学院修士課程 / 労働市場 / 学生の志向性 |
研究実績の概要 |
本年度は、アメリカにおける大学院修士課程の近年の変容を、学生層、教育プログラム、労働市場での処遇の3点から、日本や中国との比較の視点をもって、明らかにすることを課題とした。事前の文献調査のうえ、2016年3月にアメリカにおいて訪問調査、文献収集を実施した。訪問した機関は、Council of Graduate Schools、George Mason University、Pennsylvania State Universityである。Council of Graduate Schoolsでは、アメリカにおける大学院修士課程の近年の動向について、George Mason University、Pennsylvania State Universityでは、歴史学、生物技術、MBA、法学、応用統計学の修士課程プログラム担当者に、それぞれ1.5時間程度の講義とそれに対する我々に質疑や議論を加えて2時間程度のセミナー形式による調査を行った。セミナー形式とすることで、先方事前に講義内容の準備、資料作成をしてもらうことができ、われわれも事前にそれに目を通してセミナーに臨むことができ、結果として密度の濃い調査を実施することができた。 アメリカにおいては大学院は十分に発展しており、大学院修了者の労働市場における処遇も確立していたものの、近年はPhDやプロフェッショナルスクールの価値が低減し、それに対応して修士課程の専門職化が求められるようになっている。それは人文社会科学のみならず、自然科学や工学でも同様であり、上記のいずれのプログラムにおいても、いかに労働市場に受け入れられるプログラムを構築するかに工夫が凝らした改革が進行中であり、それにより学生を確保し、大学院のプログラムとしてサバイバルしようとしていることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定の通り、日・米・中の3か国比較による、文系大学院修士課程の機能に関して、アンケート調査、インタビュー調査、文献資料、調査データなどの収集とその分析により、なぜ、日本における大学院教育が評価されないのか、他方で、アメリカ・中国において、大学院教育の評価が高いのかに関して、明らかにすることができた。 アメリカでは、そもそも大学院の規模が拡大しているが、そこで近年課題となっているのは、短期の修士課程、それも職業と密接な関係のある分野の構築であった。中国では、学術学位に比較しては劣位にあるとされながら、政府は、短期の専門職修士課程の増加によって、大学院進学熱を吸収しようとしていた。 それに対し、日本では、文系大学院に対する要望は大学内外において低く、そのため労働市場への対応を目指しての大学院教育が行われる余地が少なく、大学および教員は学術的な大学院教育への固執が強いことが明らかになった。 政府主導、それへの追従として大学院を拡張したが、教育プログラムの確立、労働市場との関係構築が進まず、そのため学生確保が困難な日本、亢進する大学院進学熱を政策主導で短期の専門職過程に振り向けようとする中国、労働市場の要望に合わせて教育プログラムを変容することで大学院のサバイバルを図るアメリカという対比をすることができるた。 これらの研究の成果は、これまでにもいくつかの学会発表、個別の論文として発表を行ってきたが、現在、参加メンバーの個別論文を、日中米の比較として書籍化して2016年度の出版を目指して調整を図っている。また、この書籍を英語化することも計画している。
|
今後の研究の推進方策 |
大学院で教育を受けた者が、労働市場でどのような処遇を受けているかに関しての、学部卒業生と比較した包括的な調査が必要である。今回の科研では、その問題を克服することを目指していた。しかしながら、個々の大学において、同窓会組織などとの連携によってそうした情報を把握している大学が少なく、そうした情報を把握していても、個人情報保護法に抵触するがゆえに、情報の開示がなされないという問題があり、この課題へのアクセスができなかった。また、企業において大学院修了者と学部卒業者との採用後の処遇を明らかにすることで、この課題へのアプローチは可能になるが、多くの日本企業において文系大学院修了者がきわめて少ないため、文系修了者の特性としてデータを解析することができないという問題があった。 この課題へのアプローチへの有効な方法が現段階では見いだせない状況であり、研究の方法論の検討以上に、データ収集の方法の課題解決が課題となっており、研究者の個人の努力では十分な解決が困難に思われる。 大学教育の効用という観点での研究課題が社会的に認知され、それに対して個人ベースの(しかしながら、個人を特定できない)データの収集と提供を求める仕組みが小袿されることが強く望まれる。これは社会学研究であるとともに、政策研究でもある。大学院拡充を欧米との比較でのみ実施してきた日本の高等教育政策に対し、日本社会で大学院がどのように機能しているかを明示するデータがない状況において、こうした研究が可能になれば政策に対しての一石を投じることができると考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アメリカでの調査が、先方の都合により、予定より遅れて2016年3月に実施することになり、そのため、訪問調査によって収集するデータの解析が、当該年度中にできなくなった。滞りなく研究を遂行するために、収集したデータの解析に必要な金額を2016年度に繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
収集したデータの解析に必要な費用として、数量データ入力、インタビューデータの文字起こしを業者に委託する。
|