研究課題/領域番号 |
25285259
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
葉石 光一 埼玉大学, 教育学部, 教授 (50298402)
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研究分担者 |
大庭 重治 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (10194276)
池田 吉史 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 助教 (20733405)
勝二 博亮 茨城大学, 教育学部, 教授 (30302318)
岡崎 慎治 筑波大学, 人間総合科学研究科(系), 准教授 (40334023)
奥住 秀之 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (70280774)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 知的障害 / 実行制御 / 持続的注意 / 反応抑制 / アップデーティング |
研究実績の概要 |
本年度は、知的障害者における行為の実行制御の検討、および知的障害者における行為の実行制御に対する支援実践について検討した。 (1)知的障害者における目的的行為の持続について:視覚的オドボールパラダイムにより、目的的行為の持続について検討を行った。オドボールパラダイムでは、対象者に提示される刺激(本研究では視覚刺激)の種類に応じて求められた行為(マウスクリック)を遂行する。刺激全体の70%を占める高頻度刺激には反応する必要はなく、残りの低頻度刺激にのみ反応するよう教示した。課題は二種類あり、第二課題は第一課題よりも反応刺激の選択肢が多く、ワーキングメモリへの負荷が高い。本研究では、知的障害者の目的的行為の持続の特徴を、ワーキングメモリへの負荷の点から検討した。検討の結果、知的障害者では、基本的に、ワーキングメモリへの負荷が高いほど行為の持続にミスが多くなることが明らかとなった。この傾向は、高頻度刺激に反応してしまうコミッションエラーにおいては知的障害の程度の影響はみられなかった。しかし、低頻度刺激への反応を忘れてしまうオミッションエラーについては、知的障害の程度が重いほど顕著であった。 (2)知的障害者の行為の実行制御に対する支援について:知的障害者は、行為が目的から逸脱しやすいことがよく知られている。これは、場面文脈にそぐわない反応の抑制困難とみられるが、これに対する支援手続きを実践的に検討した。研究では、場面文脈にそぐわない反応の出現に対して、主に視覚的手がかりを示すことにより、必要な行為に関わる情報をアップデーティングすることの効果を検討した。対象児には、予定表等の提示とともに作業補助者の行動や、補助者からの問いかけを手がかりとして、作業のプランニングの修正が促され、作業への主体的な参加の可能性が高まる様子がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究を通して、知的障害者における行為の目的からの逸脱に関わる要因を、実験的および実践的に検討した。主に着目したのは、①注意の持続、②反応抑制、③ワーキングメモリの側面であった。研究の結果、知的障害者における行為の実行制御の問題の発現には、ワーキングメモリの負荷の影響が表れやすいこと、それによって必要な情報の保持が困難になり、目的からはずれた行為が発現することが示唆された。この点に関して、実践的に検討した結果、行為に必要な情報を視覚的手がかり等を通して確認(あるいは再確認)することでアップデーティングすることが、目的からの行動の逸脱を改善しうることが示唆された。 知的障害者に反応抑制の困難とワーキングメモリの弱さがみられることは、従来の研究において示されてきたところである。しかし、日常生活場面におけるそれぞれの機能の関連については十分な研究が行われてこなかった。本研究では、反応抑制の困難に対する直接的支援は、知的機能や言語機能に対する負荷の大きさの点から成果をあげにくいと考え、ワーキングメモリへの情報のアップデーティングに対するアプローチを試みた。既に述べたように、その結果は、場面文脈にそぐわない行動の減少につながった。 本研究課題では、知的障害者の目的的行為の遂行を最適化する条件を検討することを目的としてきた。特に、実行機能の諸側面(行為や認知の抑制、切替え、関連する情報のアップデーティング)に着目した検討を行って来た。これまでに、行為の目的からの逸脱に関わる要因の実験的検討および日常生活の作業場面での実践的検討を終えており、本年度はこれまでの成果の最終的な検証を行う段取りとなっている。これは、本研究課題の当初の目的にそったものであり、研究が順調に進行していることを意味している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を簡潔にまとめると、①知的障害者の目的的行為の困難は、注意の持続の難しさと関連があること、②注意の持続を補うための手続き(情報のアップデーティング)を行うことで目的的行為の遂行状況が改善する可能性があること、の二点である。本年度は、目的的行為の実行に対する情報のアップデーティングの効果について、実験的、実践的な検証を行うことである。実践的な検討を通して、アップデーティングされた情報が目的的行為の遂行に活用されるかどうかは、行動への動機付けに左右されるものであることが推察された。本年度は、特にこの側面に着目した実験的、実践的研究を行い、これまでに明らかにしてきた知的障害者の目的的行為の遂行における最適化条件を再度検証する。これにより、特に、日常生活に関わる行為の実践場面における支援方策を明らかにすることが本年度の研究の目的となる。 一般に、目的的行為の遂行に関わる実行制御には、認知的なクールシステムとともに情動的なホットシステムが関与していることが指摘されている。動機付けの側面は、特に後者に関わるものである。知的障害者を対象としたホットシステムが関与する場面状況での研究は十分に行われていない。行動を方向付ける要素として動機付け(人に受入れられる感覚、自己原因性の感覚、有能さの感覚)が重要であることは明らかであるが、それが実行制御の諸側面(ワーキングメモリへの負荷、反応抑制の困難)に与える影響を具体的に検討し、知的障害者の日常生活支援における環境設定や係わり手の行動に必要とされる諸条件を実験的、実践的に明らかにする。 なお、研究メンバー、必要な機器、フィールドはこれまでと変わりがなく、現時点で研究の遂行に問題はない状況である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、予算執行におけるミスであり、研究遂行上の問題によるものではない。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の予算として間違いなく執行する予定である。原則として備品費として使用する予定である。
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