研究課題/領域番号 |
25285260
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
高橋 登 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00188038)
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研究分担者 |
井坂 行男 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (40314439)
中村 知靖 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (30251614)
武居 渡 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (70322112)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ATLAN / 漢字の書取り / 音韻意識 / 聴覚障がい児 |
研究概要 |
本研究は3つの目的からなる。第1に,われわれがこれまで開発してきた,幼児・児童・生徒を対象とした適応型言語能力検査(ATLAN: Adaptive Tests for Language Abilities)の機能を拡張することである。具体的には,既存の「語彙」「漢字」「文法・談話」「語用」の各検査に加え,「音韻意識」と「漢字の書取り」検査をATLANに実装する。第2に,ATLANをタブレット型端末で動作するようにすることにより,検査の利用範囲を広げる。第3に,このようにして作成されたATLANを用いて聴覚障がい児の言語能力査定を行い,特徴を明らかにすることである。 25年度は,ATLANをタブレット型端末でも動作可能なように,Webデザインを全面的に改訂し,また,合わせて動作改善のため,サーバの移管を行った。Google等から「ATLAN」で検索可能である。 また,「漢字の書取り」検査については,小2~中3計1306名に漢字の書取り検査を実施し,その結果をもとに問題ごとの困難度・識別力についてパラメータ推定を行い,不適切な問題を除いた上で,合計244問を問題プールとする書取り検査を作成,ATLANに実装した。また,こうして作成された書取り検査を用い,小3~6年生計283名を対象として実験を行い,書取りの成績を説明する要因について分析した。書取りの成績を目的変数とする重回帰分析の結果,学年,漢字,字形の正確さ,および筆順の正確さで全体の60~70%の分散が説明されることが示された。「音韻意識」に関しては,課題としてタッピング・抽出・逆唱・置き換え・(特殊音節を含む単語の)タッピングの課題を用意し,幼稚園年少児~小学校1年生を対象に実施し,パラメータ推定を行った。 第3の目的に関しては,文献の収集,および課題の整理を行うにとどまった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.ATLANのWebデザインの変更,および動作改善のためのサーバの移管に関しては,大学情報処理センターのホスティングサービスを利用し,これまで研究室で維持管理していたサーバから移管した。これにより運用が安定したばかりでなく,セキュリティの面に関しても大きな改善が見られた。また,Web制作会社に依頼し,これまでのATLANのシステム全体を見直すことにより,デザイン面で利便性が高まったばかりでなく,データの管理等に関しても整備された。 2.ATLAN書取り検査に関しては,検査を作成するばかりでなく,同検査を用いて漢字の書取りに必要な要因を明らかにした。近年,漢字の書字に困難をもつ児童・生徒についての関心が高まり,研究の蓄積も進みつつある。ただし従来は,その多くが事例研究に留まっていた。本研究では公立小学校に通う児童を対象に書取り(漢字書字)に関わる要因を検討し,書取り成績の60~70%の分散が学年・漢字の知識および,字形の正確さ・筆順という書字に固有の要因によって説明されることを明らかにした。 3.ATLAN音韻意識検査に関しては課題を作成,幼稚園年少児~小学校1年生を対象にそれを実施したが,パラメータを推定するにとどまり,Webへの実装,さらに動作の検討・妥当性の検証までには至らなかった。 4.ATLANを用いた聴覚障がい児の言語能力査定に関しては,25年度は研究分担者と6回の研究打ち合わせを行い,文献の収集,課題の整理を行った。特に,聴覚障がい児の語彙・文法・音韻意識・語用の能力の4点について現在までの研究知見を整理し,次年度調査の準備作業を行った。
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今後の研究の推進方策 |
1.ATLAN音韻意識検査に関しては,25年度に収集されたデータに基づき,問題の精選を行った上でWebへの実装を行う。その上で,動作の検討・妥当性の検証を行う予定である。 2.聴覚障がい児の言語能力査定に関しては,以下の3点について本年度は研究を進める予定で準備を進めている。(1)小学1年生~高校3年生を対象にATLAN語彙・漢字・文法の各検査を実施し,それぞれの関連性について検討し,また聴児のプロフィールと比較することにより,聴覚障がい児のリテラシー発達に固有の要因を明らかにする。(2)これまで試行版にとどまっていたATLAN語用検査について,内容を見直し,データの収集を再度進めることにより改訂・完成版を作成し,これを用いて聴覚障がい児の語用能力について査定する。(3)ATLANを用いて聴覚障がい児の音韻意識と語彙・文法,文字の読みの相互関係について実験的に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験,データ分析が想定より短時間で終了したため,そのために用意していた謝金の費用を繰り越すこととなった。 26年度は幼稚園・小学校・聴覚支援学校における調査を計画しており,そのための補助者への謝金に充当する予定である。
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