研究課題/領域番号 |
25286003
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
辻 正治 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (30038608)
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研究分担者 |
辻 剛志 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (50284568)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 複合金属ナノ微粒子 / コアシェル構造 / ナノロッド / エピタキシャル成長 / 金属触媒 / 結晶成長 / ブロック成長 / ダンベル構造 |
研究概要 |
本研究では新規三元系金属ナノ粒子の合成と結晶成長機構、それに新規触媒としての応用研究を実施する計画である。本年度は三元系金属ナノ粒子の成長機構の解明を目的としてAu@Pd@Cuナノロッド(NR)の合成及びそのAu@Pd NRコア上でのCuシェル層の成長機構を検討した。 Au@Pd@Cu NRの合成は2段階で実施した。まずAu NR 存在下、H2PdCl4をアスコルビン酸で還元することでAu@Pdコア・シェルNRを合成した。添加するH2PdCl4の量を調整することによりダンベル形状、ロッド形状のAu@Pd NRが得られた。さらに、このAu@Pd NRを種微粒子としてCuCl2をグルコースで還元剤することでAu@Pd@Cu NRの合成を試みた。試料はFETEM, EDS, XRD, UV-Visスペクトルにより構造解析した。 Au@Pd NRに対してCu2+を還元させると、まずNRの長軸側にCu原子の核が生成した。その後さらに加熱を続けると核粒子が成長し一個のブロック状Au@Pd@Cu NR微粒子へと成長した。その後Au@Pd@Cu NRはCuブロックが一面だけでなく他の面へ成長し、Au@Pd NR全体を被うことがわかった。ただし各ブロックの成長速度が不均一なためにブロックの大きさにはばらつきがあり、多くの場合にAu@PdコアはAu@Pd@Cu NRの中心から外れた位置に観測された。本研究においてAu@Pd@Cu NRのCu層の成長機構は、従来の層状成長や多核が成長する島状成長ではなく、単一核がブロック状に成長する新規な機構で進行することを見出した。Au@Pd上のCu層のエピタキシャル成長は直方体Au@Pdのみならず、ダンベル状Au@Pdをコアとした場合にも起こることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近年、多元系金属ナノ微粒子は一元系微粒子とは異なる優れた特性を示すことから、その合成法の開発と応用に関する研究が活発に行われている。本研究では、世界に先駆けて新規三元系コア・シェル微結晶をサイズ・形状選択的に合成し、それを新規触媒材料として応用することで、複合金属ナノ微粒子の合成と応用の分野でブレークスルーを達成することを目的として研究を遂行した。初年度の平成25年度は当初の計画に従い以下の二つの課題を実施した。 (1) 新規三元系ナノ微粒子の合成と結晶成長機構 本年度は新規Au@Pd@Cuナノロッド(NR)の合成とそのAu@Pd NRコア上でのCuシェル層の成長機構を検討した。Au@Pd NRに対してCu2+を還元させると、まずNRの長軸側にCu原子の核が生成した。その後さらに加熱を続けると核粒子が成長し一個のブロック状Au@Pd@Cu NR微粒子へと成長した。その後Au@Pd@Cu NRはCuブロックが一面だけでなく他の面へ成長し、全体を被うという従来報告例がない新規な結晶成長機構で反応が進行することを見出し、この分野でのブレークスルーを達成できた。またAu@Pd上のCu層のエピタキシャル成長は直方体Au@Pdのみならず、ダンベル状Au@Pdをコアとした場合にも起こることを世界に先駆けて見出した。上記の研究成果は2013年に英国化学会のCrystEngComm誌で発表した。 (2) 三元系ナノ微結晶の合成における核生成・結晶機構における溶存イオンの役割解明 上記の基礎研究としてAu@Cuナノロッド(NR)の合成と結晶成長におけるCl-イオンの効果を研究した。その結果Au@CuのCu層はCl-の存在の有無で結晶成長機構が単核ブロック成長から均一層状成長に変化することを見出した。 上記の点から研究は予想以上に順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の二つの課題を中心に実施する計画である。 (1) Au@PdAg@Ag ナノロッド(NR)の合成とPd-Ag合金化機構の解明 Au-Pd-Ag三元系コア・シェルNRの合成の予備実験をした結果、Pd-Ag層間では低温で自発的合金化が起こることを世界に先駆けて見出した。今後はその機構の解明や例えばPdをPtやRhに変えた場合にも自発的合金化が起こるかなどについて知見を得たい。 (2)AgPd@Pd、Ag@TiO2微結晶のTiO2、CNT、グラフェンへの担持と触媒特性に関する研究 最初に担体として用いるアナターゼ型TiO2ナノ微粒子はマイクロ波加熱の加水分解反応で合成し、CNT、グラフェンは熱CVD法で合成する。次にTiO2やCNT、グラフェンに担持したAgPd@Pdナノ微結晶をTiO2ナノ微結晶上や配向単層CNT、グラフェン表面上に、マイクロ波加熱により配向坦持させる。得られたナノ材料の形態、粒径分布、結晶構造、元素組成比を精密解析する。さらに合成した触媒微粒子をギ酸分解による水素発生触媒や色素太陽電池の光触媒としての応用を目指したい。予備実験では室温で世界最高性能のギ酸分解による水素発生触媒特性を有するAgPd@Pd/TiO2ナノ微粒子の合成に成功しており、今後はさらに合成条件を最適化し、触媒特性の微粒子の形状・サイズ・組成依存性を明らかにする計画である。 また同様のコア・シェル型ナノ微粒子合成と触媒応用に関する研究をAgPd@Pd/CNT, AgPd@Pd/グラフェン, Ag@TiO2/CNT, Ag@TiO2/グラフェンについても実施する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では多くの種類のA@B@C型三元系金属ナノ微結晶の合成を行う計画であった。しかしAu@Pd@Cuナノロッドの合成実験を行った結果、これまで未報告の新規な単一核発生、その直方体ブロック状シェルへの成長、さらに複数ブロック生成による直方体形状のAu@Pd@Cuナノロッドの成長という新機構でナノ粒子が結晶成長することがわかった。予想外の結晶成長機構で三元系金属ナノ微結晶が生成することを世界に先駆けて見出したので、本年度は、主としてこのAu@Pd@Cu系に絞って実験に取り組むことにした。よって当初の計画を見直し研究対象を絞った関係で研究費は予定より低い予算で実施可能であった。 本年度は当初の計画に従い多くの種類のA@B@C型三元系金属ナノ微結晶の合成を行う計画である。よって次年度使用額は主として試薬代や合成生成物の精密分析機器使用料に充てたい。また我々の研究成果を国内外の学会で発表するとともに国内外の本分野の研究者と交流し、この分野の研究動向について最新の情報を得るための旅費や学会参加登録費、それに研究成果の投稿料や英文校正料金として使用したい。
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