研究課題/領域番号 |
25286005
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齋藤 理一郎 東北大学, 理学研究科, 教授 (00178518)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 円偏光二色性 / コヒーレントフォノン / Gバンド / RBM / 光パルス列 |
研究実績の概要 |
本年度は、カーボンナノチューブの光物性に関する下記の研究について成果をまとめ、論文に発表した。 (1) カーボンナノチューブにおける円偏光二色性(ナノチューブに、右巻きの円偏光と左巻きの円偏光を照射すると、光吸収に差が生じる物理現象)の理論を完成して、論文に発表した。従来の円偏光二色性の理論を用いると、ナノチューブの立体構造が持っている高い対称性のために、円偏光二色性の値がゼロになってしまうという問題があった。今回の研究成果は、この問題点を克服する新しい理論である。すでに発表がある、実験グループによる結果と良い一致を得た。本研究の重要性は、ナノチューブの分離精製技術の進歩によって、右巻きと左巻きのらせん構造を持つナノチューブの分離ができたことと密接に関係している。右巻きと左巻きのらせん構造の分離の度合いを円偏光二色性で定量的に評価することが、理論上可能になったことで、分離技術の標準的な手法になることができた。 (2) カーボンナノチューブのコヒーレントフォノン分光(非常に短い光パルスを照射することで、位相のそろったフォノンを励起し、観測する実験手法)において、特定のフォノンモード(RBM や Gバンド)だけを観測するために、どのような光パルス列を入れたらよいかを理論的に示した研究であり、論文に発表した。コヒーレントフォノン分光は、共鳴ラマン分光と似たような手法であるが、時間分解などにラマン分光では得られない情報を持っているので重要である。特に光パルス列を用いたコヒーレントフォノン分光では、特定のフォノンの振動数に光パルス列の周期を合わせることで、特定のフォノンだけを増幅することができる。この技術を、フォノン振動数が大きいフォノンでも適用できることを示したのが本論文の成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カーボンナノチューブの実験的研究グループと同じ研究スピードで研究が進んでいる。円偏光二色性の理論は、従来にないオリジナリティの高い仕事であり、理論を作るのに時間がかかる仕事であるので、単年度で数値的な計算結果も含めて論文にまとめたのは、順調に進展していると自己評価できる。円偏光二色性の理論的結果は、まだ測定されていない、その他のらせん度のナノチューブの円偏光二色性の検証にも使えるので、今後の実験の展開が期待できる。 またコヒーレントフォノン分光も、光パルス列を用いたテクニックは、既に実験で広く使われているが、高い振動数のフォノンモードに用いることができなかった。今回の成果は、この問題を解決した理論であり、今後の実験的検証が待たれるところである。したがって、研究分野のスピードにマッチして、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
円偏光二色性の理論では、ナノチューブの光吸収で考えなければならない励起子の効果が、単に定数倍としてしか考慮されていない。励起子の効果は、波数の関数であり、また立体構造によって固有の値を持つことが期待されている。実験とより定量的な比較をするためには、励起子の波動関数を用いた光吸収の式を用いた円偏光二色性の理論を構築して、数値計算をするプログラムを開発する必要がある。現在の段階は、励起子の波動関数を利用した円偏光二色性の式を導入したところである。我々の研究室には、ナノチューブ軸に垂直な偏光に対する励起子の計算をするプログラムが無いため、今後このプログラムの開発を含めて、研究を推進していく予定である。 また、コヒーレントフォノン分光に関しては、今後の実験の展開を見ながら、どのように研究を展開するか検討していきたいと考えている。一方原子層物質における、コヒーレントフォノン分光の結果があるので、本研究で開発したプログラムを応用して研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
カーボンナノチューブの円偏光二色性の研究を2年前から行い、一部成果を論文発表した。しかし実験と計算結果を定量的に比較するために、計算に励起子の効果が必要であることが、今年度になって発覚した。この励起子の効果を取り入れる計算の方法を大学院生と検討してきたが、想定以上に時間がかかり計算が終了せず、最終年度に成果発表ができなくなった。今後、研究支援者を雇用し、計算を継続して、次年度の国際会議で発表を行う。
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次年度使用額の使用計画 |
30年度が最終年度であるため、記入しない。
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