研究課題/領域番号 |
25286006
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
青木 伸之 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 准教授 (60312930)
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研究分担者 |
落合 勇一 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 名誉教授 (60111366)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 走査ゲート顕微法 / 開放系量子ドット / 波動関数分布 / 2次元電子ガス / グラフェン / h-BN / 量子ゆらぎ / 結合量子ドット |
研究実績の概要 |
本研究では,開放系量子ドット内においてナノプローブを導入し、走査ゲート顕微法(SGM)により量子マニピュレーションによって波動関数をアクティブコントロールすることで,新しい電子波デバイスを実現することを目的としている。これまでは半導体ヘテロ接合に形成された2次元電子層(2DEG)に形成された開放系量子ドットにおける波動関数分布が観察に用いられてきたが,探針から2DEGまでの距離は100nm以上となることから十分な分解能が得られなかった。さらに結合量子ドットを形成するにあたり,空乏層の広がりを考慮する必要があることから,結合量子ドットの系の大きさが数ミクロンになってしまうといった問題が発生していた。そこで,平成25年度はよりグラフェンにおける開放系量子ドットの形成を視野に入れて並行して研究を進めてきた。平成26年度はh-BNをグラフェン(Gr)の上下面に積層したBN/Gr/BN構造の作製に着手した。BNの積層方法としては幾つかの方法が提案されているが,25年度に行ったウェットプロセスからドライプロセスへと改良を行うことで,2端子ながら低温で55,000 cm2/Vsの移動度にまで向上させることができた。この試料での平均自由行程は約200 nmと見積もられ,想定される結合量子ドットの大きさである1μmに近づいていることが確認でした。SGMに関しては,本年度は量子ポイントコンタクトを中心に観察を行い,高磁場における分数量子ホール効果に対応する明瞭なプラトー構造の観測に成功し,物理学会の年会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スプリットゲートやエッチングで作製した量子ドットでは,ダウンサイジングが困難であり,多重結合量子ドットの作製に問題があることが予想される。このことから2次元電子ガス層としてグラフェンを使用することに着目しているが,波動関数分布を観測するのに必要なその高移動度化には難点があった。そこで,初年度よりBNを利用した高移動度素子の作製を開始し,昨年度は55,000 cm2/Vsの移動度の素子の作製ができるまでに至った。そのため,当初の計画よりも多少の遅れが出ているが,これによる今後の進展を考えれば,必要不可欠な判断であったと考えている。また,高解像度化に関する追求として,SGM観察用のカンチレバーをDFM型の高分解カンチレバーに変更を行ったが,昨年度はさらに探針の高解像度化をめざし,チューニングフォークの利用も開始した。以上より,平成27年度以降の研究をスムーズに遂行するための下地作りが行われてきたことから,今後の研究の進展を期待している。
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今後の研究の推進方策 |
現在,AlGaAs/GaAsヘテロ界面の2DEGに形成した単一および2重開放系量子ドットに対するSGM観察を行っており,夏までにはその結果の議論ができる状況になると予定している。また,グラフェン試料についても現在4端子試料を作製するための技術を修得し,これから量子ドットの形成のための微細加工に入る段階まで来ている。このように,この一連の研究を遂行するための準備は着実に進展しており,今年度中には結合量子ドット間を往来する閉じられた電子軌道に対してAFM探針によって変調が可能となると考えている。一方の量子ドットの変調に対する影響が他方の量子ドット内の電子密度分布へと波及する効果を検証し,リモートコントロールの基礎的データを収集していく。AFM探針のポテンシャルの導入によるレギュラー系/カオス系への遷移や,このような閉鎖軌道を利用した量子演算素子(キュービット)への応用も含めて検討していく予定である。
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