研究実績の概要 |
有機色素分子が1 nm 間隔で配列した有機会合体では,隣接分子間に働く双極子相互作用によりフレンケル励起子と呼ばれる電子状態が形成される。この励起子の形成に由来する光学・電子励起特性は,植物が光合成初期過程の光捕集機能として利用する重要な性質であるとともに,各種有機素子の設計・動作に有用であり利用価値が高い。本課題では,半導体材料によるフレンケル励起子の人工創製を目指し,有機会合体の構造を設計指針とした,半導体量子ドット(QD)による近接配列構造を作製する技術を開発する。そのために,本年度は下記の項目1と2を実施した。 1.DNA を利用したQDの1次元配列法の開発(小田,座古) 前年度までに,半導体材料によるフレンケル励起子の人工創成に必要な,有機色素分子並みに小さな直径2 nm以下の寸法を持つ極微小QDの合成法を開発した。また,この手法で得たQD を,1nm以下の間隔で1 次元的に配列するための新たな手法として,「QD表面にオリゴDNAを結合し,DNAの結合特性を利用して配列する方法」,並びに,設計どおり配列できた構造を分離・精製する技術の開拓に取り組んだ。本年度は,それらの改良と最適化を行い,約0.5nm間隔でQDを配列する技術を得た。 2.QDの1次元配列構造に対する顕微発光特性の測定 (小田) QD の1次元配列構造によりフレンケル励起子が形成されると,有機会合体との類推から,吸収・発光スペクトルの先鋭化と赤シフト,発光寿命の高速化などの光学特性が出現すると期待できる。本年度は、これらの発光特性の検出に向けた光学計測を実施した。昨年度までに準備した顕微計測システムを改良し,上記項目1で作製した試料に対する光学計測(顕微発光スペクトル測定,励起スペクトル測定等)を実施した結果,一部の測定において,フレンケル励起子形成の初期段階と期待できる光学特性を観測した。
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