研究課題/領域番号 |
25286016
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
田中 正俊 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90130400)
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研究分担者 |
大野 真也 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究教員 (00377095)
大野 かおる 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40185343)
関谷 隆夫 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60211322)
宮内 良広 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 講師 (70467124)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 表面・界面物性 / ナノバイオ / 光物性 |
研究実績の概要 |
本年度の研究計画に従って、下記の(1)-(4)を進めた。 (1) サイクリックボルタンメトリー(CV)の測定系の構築: ポテンショスタットに外部駆動電源を接続し,電極電位を走査して電流を測定することによりボルタモグラムを測定する系を構築した. (2) 電極表面の評価: Au (110)-1x2表面に有機分子を吸着させた後清浄表面を再生させる過程で,(111)面のステップバンチングが形成されることが原子間力顕微鏡(AFM,防衛大)とCVで示唆された.現在,研磨工程を改良中であり,今年度は主にAu蒸着膜を電極として用いた. (3) 電極表面の有機分子の測定: まず,実験方法の改善を行った.有機分子が不均一に吸着することがAFMで観測されたため,吸着条件を探索した.通常のラマン分光では信号が小さすぎたので,共鳴ラマンの測定を行うべく改良を進めている(防衛大).紫外領域でも十分な感度で測定できるように真空紫外表面反射分光装置(産総研)を固液用に改良した.以上の改善を行ったうえで,電解質溶液中でポテンシャルを変化させながら表面反射分光スペクトルを測定した.有機分子としては,簡単な構造を持つアミノ酸cysteine, 及び紫外に吸収をもつ含硫複素環式化合物2,5-dihydroxy-1,4-dithiane, thiophenolを用いた.(4)の電子状態計算の結果からスペクトルに現れる構造の帰属を行い,それぞれの系でポテンシャルによって分子が酸化,傾斜,脱離する様子を捉えることができた. (4) 光電子分光と第一原理計算による光学遷移の推定: Au表面にシステイン分子を蒸着して九州シンクロトロン光研究センターにおいて価電子帯とS2pの光電子分光スペクトルを測定した.また,Au(110)表面上にcysteine, 2,5-dihydroxy-1,4-dithianeが吸着した構造について電子状態の第一原理計算を行った.価電子帯の状態密度は光電子分光の結果とほぼ一致し,計算の妥当性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Au (110)面が規定された表面になっていないことが示唆されたため,結晶表面での測定,特に反射率差分光(RDS)の測定が遅れている.一方,Au蒸着膜を用いても表面差分分光(SDRS)の測定でかなりの情報が得られることが分かり,予想以上の進展があった.電子状態計算,光電子分光も順調に進んでいる.従って,プロジェクト全体としてほぼ計画通りの進展と評価される.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 電極表面の調整: Au(110)-1x2表面については,微斜面化を防ぎステップバンチング形成を避けられるように研磨法を改良する.Au蒸着膜を用いた測定で情報が得られたと云っても,蒸着膜表面はAFMで観測するとかなり凹凸があるので,より規定された表面を扱った方が結果を解析しやすい.このため,雲母表面上に厚めのAu蒸着膜を形成して加熱することにより,Au(111)表面を作成することを試みる. (2) 固液界面上の分子の測定: Au(111)表面,Au(110)-1x2表面上に有機分子を配列させ,ポテンシャルを制御しながら分子配列の挙動を様々な方法で測定する.分子としてはアミノ酸としてcysteineに加えてmethionine, 有機分子としては2,5-dihydroxy-1,4-dithiane,thiophenolに加えて,thiophenol にアミノ基やカルボキシル基を付加したamino-thiophenol, 4-mercaptobenzoic acidを使用する.まず,CVの測定により,ポテンシャルと生体分子の荷電状態との関係を把握し,ポテンシャルによる各電子状態の変化をSDRS, RDSでin-situリアルタイム観測する. (3) 光電子分光と電子状態計算: 九州シンクロトロン光研究センターにおいて光電子分光測定を行う.この結果を電子状態計算で得られる価電子帯の状態密度と比較して電子状態計算の妥当性を評価する.信頼できる計算から得られた振動子強度の強い遷移を表面反射分光で得られる構造に対応付ける. (4) 分子配列の機能のダイナミクスの検討: CVの結果から生体分子の荷電状態が決定でき,SDRS, RDSと第一原理計算から各々の荷電状態におけるHOMO-LUMO間等の遷移エネルギーと分子配向の異方性を推定できる.これらの結果より,固液界面上の分子配列の機能を電子状態の観点から議論する. 以上の研究により得られた成果については日本物理学会,応用物理学会,ECOSS-31など各種学会にて発表する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
もともと基金を初年度に多く配分したのは,研究が飛躍的に進んで消耗品等を多量に購入するような場合でも対応できるようにするためである.昨年度までの研究の進度はほぼ計画通りだったため,今年度も基金の半分近くを繰り越すことになった.これは十分想定された状態である. 昨年度の執行額が少なかった理由は,Au (110)面が規定された表面になっていないことが示唆され,結晶表面での測定,特にRDSの測定が遅れたため,基板として用いているAu単結晶の購入個数が少なかったこととことが挙げられる.
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次年度使用額の使用計画 |
Au(110)の規定された再構成表面が作れるようになると,種々の分子の測定を並列的に行うために,新たにAu(110)結晶を数個購入しなければならない.また,雲母表面上にAu蒸着膜を形成し加熱によりAu(111)表面を作成するためには,超高真空槽に新たな機構を構築する必要がある.これらのために相当額が消費されると予想される.
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