研究課題/領域番号 |
25286017
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
津田 明彦 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20359657)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超分子 / 音化学 / 分子集合体 / 有機化学 |
研究概要 |
分子スケールの世界では、熱運動する媒質分子の不規則な衝突によって引き起こされるブラウン運動が支配的な環境であるため、小さな分子がそれに打ち勝って溶媒分子の巨視的な流れに沿って整列することは極めて困難である。しかし、分子や分子集合体が大きくなれば、溶媒分子のブラウン運動の影響が小さくなり、溶液の流れを感じる取ることができるようになる。微弱な音波振動が引き起こす液体分子の流れを感じ取ることができるような分子や分子集合体の開発を目指して、我々は、アントラセン誘導体(AN)の自発的な自己集合化を利用することによる超分子ナノファイバーの開発を行った。平面構造を持つアントラセン分子に、かさ高い側鎖ユニットを取り付けることによって、ナノファイバーの合成に成功した。走査型電子顕微鏡を用いて集合体の構造の観察を行うと、複数のファイバーが束になった、直径約8 nmの細長い直線状のナノファイバー構造を観察することができた。 ANナノファイバーの溶液に可聴音(正弦波)を照射しながらLDスペクトルを測定すると、強い誘起LDシグナルを確認することができた。この現象は音の周波数と音圧に大きく依存し、1000 Hz以下の低い音にのみLDシグナルの出現を確認することができた。その結果を踏まえて、世界で最も良く知られているクラシック音楽の一つである、ベートーベンの「交響曲第5番 ハ短調 作品67 運命 第1楽章 Allegro con brio」を用いてLD測定を行った。LD強度を時間変化に対してモニターすると、ナノファイバーが音楽の音に応答して配向し、そのメロディーに特徴的なLDプロファイルが高い再現性で得られた。このようなLDプロファイルは、音楽それぞれに固有の形で得られ、曲によって大きく異なることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
音楽の音で整列するナノファイバーの開発に成功し、その研究成果を論文として発表することができた。本研究成果は、ChemPlusChem 2014, 79, 516に掲載され、掲載雑誌の表紙、ChemistryViews、ワイリー・サイエンスカフェなどでハイライトされた。
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今後の研究の推進方策 |
ナノファイバーの音響配向に必要な化学的構造因子はいったい何であろうか?本現象を引き起こすために必要な分子の大きさ、構造、硬さ、溶媒との親和性など、まだほとんど明らかにできていない。そもそも自己集合による超分子ポリマー構造は必要なのであろうか?という疑問すら生じる。我々は、これらの基礎的な疑問の科学的な解明が、音響ナノテクノロジーへの新たな展開を拓くものと考えている。遷移双極子モーメントが縦と横で明確に区別することができる剛直な共有結合ポリマー(ナノファイバー)を用いると、得られたLD強度からファイバーの配向率を見積もることができる。そのようなポリマーを合成し、その音響配向挙動をLDスペクトルによって詳しく調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H26年度に行う有機合成実験において、試薬およびガラス器具など消耗品の購入が必要なため。 試薬およびガラス器具などの消耗品
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