研究課題/領域番号 |
25286022
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
臼井 博明 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60176667)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ナノ加工・形成プロセス / 自己組織化 / 表面・界面物性 / 複合材料・物性 / ポリマーブラシ / 蒸着重合 |
研究実績の概要 |
有機電子デバイスを構築する際には、有機/無機の異種界面接合の形成が必然的に要求される。さらに、機能材料のあらゆる局面で有機/無機の複合化が進んでおり、ここでも異種界面が重要な役割を果たす。そこで本研究では反応性末端を持つ自己組織化膜を利用することで、無機表面に強固に結合した高分子即ちポリマーブラシを形成し、これらの課題に対する解決策を探索することを目的とする。 前年度までに物理蒸着を用いた無溶媒プロセスによる正孔輸送性高分子薄膜の形成が可能となっている。そこで本年度は、これに反応性自己組織化膜を組み合わせることにより、無機透明電極(酸化インジウムスズ)表面に正孔輸送層及び発光層を積層し、有機発光(EL)素子を構築した。これによって特性の改善が得られ、その要因としては自己組織化膜による表面エネルギーや仕事関数の変化のみでは説明できず、界面における化学結合形成すなわちポリマーブラシの形成が重要な役割を果たすことが明らかとなった。 本年度はさらに、電子輸送機能を持つと考えられるナフタルイミンのビニルポリマー薄膜及びナフタレン骨格を持つポリイミド薄膜の真空製膜に成功し、膜形成に適した分子構造を考察するとともに、分子配向制御の可能性についても検討した。これらの結果は正孔輸送性高分子のポリマーブラシと組み合わせることによって、分子内pn接合など有意義な構造に発展できる可能性を示す。 一方、ポリマーブラシの新規な展開として、エポキシ末端及び水酸基末端を持つポリマーブラシを基板表面に形成することで、ドライ接着機能を持つナノ薄膜となるとの着想を得て、基礎的な実験に成功した。また、本研究の当初計画には盛り込んでいないが、ダイヤモンドナノ粒子を基板表面に固定化する可能性も検証されており、特異な物性を活用した新規界面形成を想定できている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリマーブラシの概念を電極/有機界面に導入し、物理蒸着法によって有機EL素子を作製した結果、研究計画で当初想定した通りの素子特性の改善が得られている。これは正孔輸送性高分子をポリマーブラシに展開したものであるが、本年度は電子輸送機能を想定した分子構造のビニルポリマー及びポリイミド膜の真空製膜にも成功しており、これらを反応性自己組織化膜と組み合わせることで、電子輸送機能を持つポリマーブラシを得るための道筋を明らかにすることができた。また、ポリイミドの配向制御についても予備的な結果が得られており、これは液晶配向制御など、当初計画の想定を超えた発展の可能性を秘めている。さらに、ドライ接着ナノ薄膜やダイヤモンドナノ粒子の固定化など、幅広い展開可能性を秘めた基盤的広がりが期待できる状況となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 分子内pn接合を持つポリマーブラシ: 前年度までに得られている正孔輸送性ポリマーブラシと、本年度得られた電子輸送性ポリマーのドライ蒸着膜を組み合わせ、無機電極から共有結合で連続した構造のpn接合を形成する。これによって安定かつ欠陥の少ない接合素子を形成することで、有機半導体デバイスの特性を向上させることを検討する。 (2) 異種材料間の接合改善への新規展開: 本年度の結果から、ポリマーブラシの概念を応用することで無溶媒接着機能を持つ高分子薄膜をドライプロセスで形成できるとの着想が得られた。そこでフレキシブル電子デバイスの開発に重要な役割を果たすナノ接着層として、基盤的研究を深化させる。特にポリマーブラシの末端基の効果、鎖長の効果、及び膜厚と、接着機能の関連を明らかにする。 (3) 研究の総括: これまでの研究成果を総括し、特にポリマーブラシがデバイス特性改善に寄与するメカニズムを明らかにするとともに、適応可能な材料について整理し、基盤的情報をまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は高額な備品としてインピーダンスアナライザを購入したが、現有のパーソナルコンピュータその他の研究資源を有効活用するために、コンピュータ、ソフトウェアおよびインターフェースを除いた仕様に見なおして発注することにより、価格を抑えることができた。これによって、既存設備を活用するとともに次年度へ向けた予算の有効活用を行うこととした。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度割愛したインピーダンスアナライザ用パーソナルコンピュータ、ソフトウェア等は、研究の進行に伴う必要状況及びオペレーションシステムの対応状況などを勘案して必要に応じて次年度に購入を検討するが、次年度は最終年度であり、比較的予算を少なく組んでいるため、物品費その他として有効に活用することが可能である。
|