透過電子顕微鏡(TEM)による三次元(3D)観察法、電子線トモグラフィー(ET)は、結晶性材料、例えば鉄鋼材料などへの適用が遅れている。これは、TEM内での結晶方位調整の難しさ、試料の形状や磁性に由来した連続傾斜画像の取得の制約など、種々の課題による。本研究ではこれらの諸課題の解決をめざし、以下の成果を得た。(1)結晶方位制御ETの確立:試料ホルダー上での試料回転角を測るソフトウェア、およびホルダー上で任意の角度に試料を回転できる試料ホルダー台を開発した。これらを、過去に開発した高傾斜三軸試料ホルダーと組み合わせることにより、試料ステージ上での試料回転角の調整をピンセット作業なしに行えるようになり、作業効率と回折条件設定精度が向上した。(2)強磁性体試料のためのET観察手法の確立:強磁性体試料でも非磁性試料と同様なET観察が行えるかどうかを検討した。薄膜形状の鉄系試料の場合、試料厚みの低減が有効であった。具体的には、機械研磨で30ミクロンまで薄くすると、連続傾斜観察が可能になるほど磁性の影響が抑えられ、更に試料高さで像のフォーカスを合わせつつ連続傾斜像を撮影すれば、非磁性材料の場合に匹敵する空間分解能で鉄中の析出物の3D観察が可能となった。一方、試料傾斜に伴うナノスケールでの局所的な変形や破損は、試料の体積や厚みを減らしても避けられないことがあり、試料形状アプローチの限界が示された。(3)圧縮センシングアルゴリズムの適用:フィルター逆投影FBPや逐次反復計算SIRTなどの既存手法と圧縮センシング(CS)による3D再構成法を、材料系の連続傾斜像データに適用し、CSを比較評価した。その結果、FBPの1/10程度の連続傾斜像枚数でもCSでは正しい3D画像が得られることや、FBPおよびSIRTに比べて試料傾斜角度不足による3D画像分解能の異方性が低減されることが明らかとなった。
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