研究課題/領域番号 |
25286028
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
桐原 和大 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (70392610)
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研究分担者 |
向田 雅一 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノシステム研究部門, 主任研究員 (70358141)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 熱電変換 / ナノ物性計測 |
研究実績の概要 |
前年度に合成条件を見出したセルロースアニール法によって炭化ホウ素ナノワイヤを合成し、多数のナノワイヤの熱電物性(熱起電力及び導電率)を、交流加熱法により1本ずつ計測する実験を前年度に引き続き行った。熱電物性計測のための微細電極加工の条件を確立し、高精度な交流加熱法による計測装置を用いてナノワイヤのSeebeck係数及びその温度依存性を計測した。その結果、炭化ホウ素ナノワイヤのSeebeck係数は、個体差が大きいものの、サンプルによっては従来のバルク焼結体の値を上回る結果が得られた。そこで研究分担者と議論し、計測装置改良によりSeebeck係数の測定温度範囲をさらに広げて再計測を行った結果、Seebeck係数の絶対値だけでなく温度係数もバルク体と大きく異なる結果が再現された。これは、ナノ構造での高い熱電特性の可能性を示唆する重要な結果である。この特異な熱電特性の起源を探るべく、ナノワイヤの構造を連携研究者の協力のもと透過電子顕微鏡で観察したところ、積層欠陥や双晶を多量に含む構造であることが明らかになった。以上の成果をもとに、国際会議及び国内学会での成果発表をそれぞれ1件ずつ行った。 ただし、ナノワイヤの表面酸化が懸念され、導電率がまだ十分高いサンプル合成の再現性得られていないため、ナノワイヤ凝集体やその熱電素子の試作には至っていない。 一方で、炭化ホウ素は光を良く吸収することから、レーザー光によるナノワイヤの局所加熱による物性改良を行うアイデアを着想し、局所レーザー照射加熱装置を購入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に確立したナノワイヤ合成から物性評価までの一連の実験プロセスを駆使し、さらに熱電計測の温度範囲を広げる装置改良により、炭化ホウ素ナノワイヤのSeebeck係数が従来のバルク焼結体の値を上回る可能性を示したことから、当初定めた2年目の計画としては順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの2年でようやく炭化ホウ素ナノワイヤの高い熱電物性の可能性を確認することができた。そこで直近では、電子顕微鏡観察のさらなる詳細な解析を進め、特異な熱電物性の起源の考察を踏まえた論文発表を急ぐ。一方で、電気伝導機構を明らかにするためには、まだサンプル数が十分でないため、引き続き同様のプロセスでナノワイヤの計測を継続するとともに、ホッピング伝導モデルに基づいた伝導機構の解析を進める。さらに、微細電極で固定したナノワイヤに局所レーザー照射加熱装置でレーザー照射を行って、in situでの熱電物性改良を試みる。 本研究の最終目標である、高い発電性能を備えたナノワイヤ素子の実現に向けては、ナノワイヤの導電性が十分高くないという課題がある。この原因を分析したところ、ナノワイヤ表面の酸化が一因と推測した。酸化は、ナノワイヤ合成後の電極加工や熱電計測時に起きているのではなく、ナノワイヤの合成時に起きていることを突き止めた。そこで、研究分担者と共同でナノワイヤの酸化を防ぐ合成条件改良に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナノワイヤの熱電物性の改良を試みるユニークな方法として局所レーザー照射加熱装置を計画したが、時期が年度後半となり、照射雰囲気制御が必要であることを装置納入後に認識したが、そのための部品購入が年度内には間に合わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度の早期に部品購入を行い、実験を速やかに開始する。
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