本研究で合成した炭化ホウ素ナノワイヤの熱電性能が、個体差が大きいものの従来のバルク(焼結体・単結晶)の値を上回る要因の解明に集中的に取組んだ。導電率及びSeebeck係数の温度依存性の詳細な解析を行い、ナノワイヤの電気伝導機構を解明した。200K~室温の温度域を挟んで、低温側では可変領域ホッピング伝導、高温側ではスモールポーラロンによるホッピング伝導に従う電気伝導であることが分かったが、両者の伝導機構が温度変化で遷移する背景に、ホッピング距離が、上記2つの伝導の拮抗する温度域でいずれも炭化ホウ素正20面体クラスター間の距離に対応している点を明らかにした。双晶や積層欠陥などが入ることで欠陥準位を介した可変領域ホッピング伝導を炭化ホウ素で初めて明瞭に観測できたことも大きな成果である。熱電性能の指標の1つであるパワーファクターが、ナノワイヤの炭素濃度がわずかに変化することで敏感に変化することも見出した。さらに、28年度の特筆すべき成果として、炭化ホウ素のナノワイヤの熱伝導率の低下に関して、Callaway理論及びMatthiesen則に基づいた考察を行い、炭化ホウ素中の点欠陥(ホウ素が部分的に炭素に置換されることによる欠陥)より、ナノスケールのサイズ効果の方が、より効果的にフォノン散乱を引き起こしていることを明らかにした。以上の様に、炭化ホウ素ナノワイヤの高い熱電性能の要因を1つ1つ解明した成果を総括し、full paperとして論文発表した。 導電性の高い炭化ホウ素ナノワイヤの凝集体や、それらと他のナノ材料をコンポジット化した熱電材料の開発に引き続き取り組み、得られた成果取りまとめて今後も発表していく。本研究で培った、ナノスケール熱電計測技術、欠陥評価技術、伝導機構の理論的考察を、炭化ホウ素以外の様々なナノ材料に適用し、本研究に関連した研究成果として発信する所存である。
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