研究課題/領域番号 |
25286029
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
梅田 倫弘 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60111803)
|
研究分担者 |
岩見 健太郎 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80514710)
太田 善浩 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10223843)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | オルガネラ / ベント型光ファイバー / 局所微小力 / 蛍光色素 / 共焦点顕微鏡 / ヤング率 / ナノニュートン |
研究概要 |
本研究は、細胞やオルガネラの力学刺激に伴う生理学応答を近接場光学顕微技術によって検出分析することで、これまで全く明らかにされてこなかった生体組織のダイナミクスを明らかにするとともに、それら生体組織を起源とする様々な疾病の機序の解明に迫ることができる分析システムの構築を目的とした。そのため、ベント型光ファイバーのたわみ変位を検出する微小力印加システムと生体組織の生理応答を光学的に検出する顕微システムを組み合わせた複合システムの開発を目指した。 H25年度では、ベント型光ファイバーによる極微小力センサーの開発および蛍光色素励起共焦点顕微鏡ステムの開発を行った結果、以下が明らかとなった。 1)ベント型光ファイバーによる極微小力印加およびセンシングシステムを開発した。光ファイバーをフッ酸によるメニスカスエッチングで直径4μm程度の先端フラット構造を作製し、その先端から2mmの位置で溶融法で曲げたベント型光ファイバーカンチレバーにクロムおよび金薄膜を蒸着させて遮光および導電性を持たせる製作技術を確立した。製作したベント型光ファイバーの変位を静電容量センサーによって計測し、0.4nNの力検出分解能が得られた。 2)光ファイバーのコア部をピンホールとする蛍光色素励起共焦点顕微鏡を開発し、位置分解能1μmのミトコンドリア画像が得られ、単離されたミトコンドリアの位置を特定できることを明らかにした。 3)開発した装置を用いて、ベント型光ファイバーをミトコンドリアに接近させて30nN以下の微小力を加えながら変形を計測することで、応力-歪み線図が得られ、これからミトコンドリアのヤング率が得られた。20個のミトコンドリアについてヤング率を求めた結果、10~115kPaの範囲内に分布していることが明らかなとなった。この値は、これまで報告されている細胞のヤング率の範囲内にあり、計測法の妥当性が確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、ベント型光ファイバーによるナノニュートン程度の力をオルガネラに加えながらその組織の生理学的応答を光学的に検出・評価するシステムを開発することを目的としている。この目的のために計画当初はベント型光ファイバー先端部から励起光を射出する近接場励起方式を採用する予定であったが、ベント型光ファイバーの開発段階で、局所印加力よりも平板印加力構造の方が弾性変形解析が容易であることが判明したため、先端フラット構造をもつベント型光ファイバーに変更した。その結果として蛍光励起光学系を、近接場方式から共焦点光学系に変更することとした。 構築した共焦点光学系は、ピンホールとして光ファイバーのコアを利用しており、光学調整が簡易で光の利用効率が高い特徴がある。構築した共焦点顕微光学系の分解能を、膜電位感受性蛍光色素で染色したミトコンドリアを評価した結果、1μmであることが分かった。本研究で対象とする組織サンプルはオルガネラの一つであるミトコンドリアを想定している。そのサイズは2μm程度であり、生理応答を解析する上で十分な解像度であることが分かった。 開発した先端フラット構造をもつベント型光ファイバーと共焦点顕微光学系を組み合わせて、ミトコンドリアのヤング率を計測し、平均値48kPaの値が得られた。 当初の初年度の計画では、10nN程度の押し付け力を印加できるベント型光ファイバーの開発およびそのバネ定数の計測が主たるものであったが、近接場光学系では生体組織の弾性特性を解析するのが困難であることから、先端フラット構造に変えることで、共焦点顕微光学系に変更し、その結果として、ミトコンドリアのヤング率まで計測できることを明らかにした。したがって、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
H25年度に構築した光学系の性能をさらに改善して生体試料の力学特性と生理学応答の相関性を明らかにするすることで、開発した装置の有効性を実証するとともに、生物生体分野における新たな解析ツールの提供を目指す。 (1)共焦点顕微光学系に波長532nmおよび488nm蛍光色素励起光学系を導入して、試料からの蛍光光を抽出する光学系を製作する。生理学応答としては、膜電位、カルシウムイオン、pH、ROSを想定しており、これらに対応した色素および干渉フィルターを選択し、十分な信号強度であることを確認する。 (2)(1)で構築した光学系と前年度に開発したベント型光ファイバーカンチレバーによる弾性率の計測法を組み合わせた最終目標とする分析システムの開発に着手する。そのために、試料に接触させたときのカンチレバー変位を精度1nmで測定できる静電容量変位センサーの感度の最適化を行う。また、共焦点顕微光学系によって蛍光光を検出するとともに、試料からの反力と蛍光強度分布を同時にデータ取得し、分析できるアルゴリズムを開発する。 (3)ミトコンドリアの呼吸基質添加に伴う体積調整現象の機序を明らかにするために、ミトコンドリア内膜の内圧を計測しながら膜電位およびpH値を、開発した顕微鏡システムで計測する。これによって体積膨潤現象のメカニズムが活性酸素の抑制のための防御機構として考えられていることの実験的裏付けとなることを示す。 (4)開発装置の機能実証例として、ミトコンドリア内部構造と活性度の相関性に着目する。ミトコンドリアの外部環境や呼吸基質の状態によって活性度が低下したとき、クリステ密度が増加する可能性がある。そこで呼吸基質を添加させたときのミトコンドリアの弾性率を計測しながらpH値計測による活性度を、開発した顕微システムで計測する。弾性率とpH値の相関が明らかとなれば、クリステ構造の生理学応答が明らかとなる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度への使用額が生じたのは、今年度での研究が想定以上に進捗し、わずかであるが、次年度の研究計画を円滑に遂行させるため、今年度の使用額を留保したためである。 速やかに消耗品等で使用する。
|