研究課題/領域番号 |
25286033
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 秀治 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00312611)
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研究分担者 |
吉田 慎哉 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (30509691)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | チタン酸ジルコン酸鉛 / スパッタ成膜 / エピタキシャル成長 / 単結晶膜 / シリコン基板 / MEMS |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,一般的なSi基板の上に高い圧電定数を低い誘電率とを両立させる,つまり,高い性能指数(FOM)を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系薄膜をスパッタ堆積させる技術を確立し,さらに,基本的なデバイスの試作によって,その圧電膜のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)への応用可能性を実証することである。FOMの高いPZT薄膜を得るために,MnとNbを両方ドーピングしたPMnN-PZTのc軸正方晶をバッファ層上にエピタキシャル成長させる。我々は,スパッタ堆積後の急冷によって,従来の常識に反してSi基板上でもPZTをc軸配向制御できることを見出し,こうして得た膜が高い圧電定数を低い誘電率とを有していることを確認した。実現したFOMは,我々の知る限り,これまでの発表と比べて大幅に大きい。 平成26年度には,本研究の単結晶PZT系薄膜を用いてMEMSカンチレバーを作製した。これを用いて圧電性能の評価を行い,エッチングや薄膜堆積を含むMEMS製造プロセスによって,本研究の圧電膜が劣化しないことを確認した。次に,本研究の圧電膜の温度特性,および高温特性を評価した。特に高温特性の評価によって,本研究のPZT系薄膜が高いキュリー点を有していることがわかった。PZTバルクセラミックは350℃程度のキュリー点を有しているのに対し,本研究のPZT系薄膜は,誘電率ピークが500℃程度に位置し,600℃でも圧電駆動し(上述のMEMSカンチレバーで実測),600℃程度まで分極特性を示し,600℃でも正方晶を保っている(立方晶に相変化しない)。これまでにも薄膜がバルクセラミックに対していくぶんか高いキュリー点を示すことは報告されているが,このような高い温度でPZTが圧電特性を示すことは驚きの結果であり,応用上のみならず,学術的にも興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
残り1年の段階で,研究計画作成当初の目的を達成した。具体的には,Si基板上に高い圧電定数と低い誘電率とを両立させる単結晶PZT系薄膜をエピタキシャル成長させることに成功し,世界最高の性能指数を得ることができた。また,この圧電薄膜を用いて基本的なMEMSである圧電駆動カンチレバーを作製し,MEMS作製プロセスによる圧電膜の劣化がないことを確認した。これによって,高性能PZT系圧電薄膜のMEMSへの適用性を実験的に実証した。 上記に加え,本研究のPZT系圧電薄膜が高温でも動作することを見出した。PZTバルクセラミックは350℃程度のキュリー点を示すのに対し,本研究の薄膜は600℃でも圧電特性を示し,高温XRDによると正方晶を維持している。これは,研究計画当初には予想しなかった優れた成果であり,応用上も学術上も価値が高いと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
計画当初の研究目的を達することができたため,本年度はさらに進んだ以下の研究を実施する。 1)Si基板上では従来難しいと言われていた単結晶正方晶PZT膜のc軸配向制御を,急冷法によって実現できたが,この方法のどこに本質があるのか明らかになっていない。量産時を考えると,急冷法には特殊な装置が必要であり,このc軸配向のメカニズムを明らかにして,より簡単で確実なc軸配向制御法を見出すことは価値がある。そのために,プロセス条件や特性の異なるPZT膜を詳細に分析し,それをもってc軸配向制御のための鍵となる物性やプロセスパラメータを明らかにする。 2)現在,PZT膜はスパッタ法で形成しているが,その下地となるYSZ,CeO2,LSCO,およびSROはPLD(Pulse Laser Deposition)で成膜している。PLDは量産性や均一性に難点のある研究向けの成膜法であるため,下地もスパッタ成膜できると,実用化の観点から価値が大きい。そこで,まず,最下層のYSZをスパッタ成膜する方法を研究し,将来的には全層の完全スパッタ成膜を目指す。そのための基礎研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画より順調に研究が進行し,また,研究室に在庫していた材料を利用することができ,結果として物品費の支出が少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
1年早く計画当初の研究目的を達することができたため,本年度はさらに進んだ以下の研究を実施する。そのための材料費,研究補助謝金,装置利用料,および研究成果発表のための旅費に,主に研究予算を利用する予定である。 1)Si基板上では従来難しいと言われていた単結晶正方晶PZT膜のc軸配向制御を,急冷法によって実現できたが,このc軸配向のメカニズムを明らかにして,より簡単で確実なc軸配向制御法を見出す。 2)現在,PZT膜はスパッタ法で形成しているが,その下地となるYSZ,CeO2,LSCO,およびSROはPLD(Pulse Laser Deposition)で成膜している。そこで,最下層のYSZを実用に適するスパッタ成膜する方法を研究し,将来的には全層の完全スパッタ成膜を目指す。そのための基礎研究を行う。
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