本研究課題においては、顕微鏡下・マイクロ流体デバイス内で、狙った1 個の細胞からクロマチンファイバーを断片化させずに単離し、解析の空間分解能を上げるために微細操作技術によって展開させた後、「顕微鏡下・その場」で特定の修飾を受けたヒストンの蛍光ラベル及び位置情報取得を行うという、個々のクロマチンファイバーに対するエピジェネティクス解析手法の基盤技術を確立することを目的としている。 本年度は、マウス繊維芽細胞を主な対象とし、マイクロ流体デバイス中における染色体単離と、取り出した染色体の搬送・固定・高次構造制御に取り組んだ。マウス繊維芽細胞からの染色体取り出しについては、アクチン重合阻害剤であるラトランキュリンを添加する事に加え、予め、染色体を個別操作できそうな細胞(細胞内で、染色体が分散気味である細胞)を位相差顕微鏡観察により選別してマイクロ流体デバイス内のマイクロポケットに配置するという事を行った。これにより、細胞から染色体を取り出す際に、歩留まり良く個々の染色体を分散させた状態で得る事ができるようになった。マイクロポケット内で得た染色体をマイクロピラーアレイ領域まで搬送し、任意のマイクロピラーへ固定する操作については、これまでに分裂酵母から単離したクロマチンファイバーに対する手法が適用可能である事を実証した。これに引き続き、塩濃度の高い溶液に染色体を曝すことで、染色体に高次構造変化を引き起こさせ、その様子をリアルタイム観察した。染色体周囲の塩濃度を1 Mに上昇させるとセントロメア以外の領域が速やかに解れた。また、個々のクロマチンファイバーに対する、エピジェネティック解析の例として、ヘテロクロマチン結合性タンパク質に対する免疫蛍光染色を行い、クロマチンファイバーに沿って、クロマチンの凝縮が分布しているのと対応して、抗体によって免疫染色した部分の蛍光輝度が高いことが確認された。
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