研究課題
基盤研究(B)
本研究の目的は、ハーフメタル強磁性体(スピン偏極率が100%となる材料)から半導体への電気的スピン注入を利用し、 (1)エレクトロニクス素子の主要構成材料であるGaAsやInGaAsにおける、電子スピンと核スピンに関するダイナミクスを解明すること、(2)核スピンをナノスケールの空間分解能で制御し、かつ、高感度に検出できる素子を創出すること、さらに、(3)核スピンの量子力学的なコヒーレンスを活用した半導体量子情報デバイスの基盤技術を確立することである。H25年度は主に、1) ハーフメタル強磁性体からGaAsへの高効率スピン注入の実現2) 電子スピンと核スピン間の超微細相互作用の解明とそれを用いた核スピン偏極の実現を具体的な目標とした。1)については、ハーフメタル強磁性体としてCo系ホイスラー合金のCo2MnSiをスピン源として用いた素子において、Co2MnSi層とGaAs層の間に極薄のCoFe層を挿入することで、スピン注入効率が従来のCoFe層だけを単独に用いた場合に比べ、一桁以上増大することを見出し、スピン注入効率の増大を実証した。2)については、超微細相互作用の大きさを評価するため、偏極した核スピンからの核磁場の大きさをoblique Hanle効果を用いて電気的に検出する手法を確立した。これは、試料面から少し傾けた方向に外部磁場を印加することで、核磁場による電子スピンの歳差運動を検出する方法である。本手法により、GaAs中に注入された電子スピンとの相互作用により偏極した核スピンの外部磁場に対する過渡応答特性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要欄において述べたとおり、H25年度の目標は、1) ハーフメタル強磁性体からGaAsへの高効率スピン注入の実現2) 電子スピンと核スピン間の超微細相互作用の解明とそれを用いた核スピン偏極の実現であり、これらはほぼ達成されたと判断される。
今年度に得られた成果をもとに、今後は、核スピン偏極の高効率化をめざすとともに、半導体スピン注入を利用した核磁気共鳴(NMR)技術を確立し、NMRを用いた核スピン操作とその電気的検出の実証をめざす。核スピン偏極率の向上のために、最適な材料や素子構造の探索を通じて半導体へのスピン注入効率のさらなる増大を図るとともに、電子スピンと核スピン間の超微細相互作用の大きさを決定付けるキーファクターを明らかにする。NMR効果を実証するため、本年度に確立したoblique Hanle効果測定法を活用し、NMRにより操作した核スピンの状態を計測する。GaAsの場合、75As, 69Ga, 71Gaの核スピンが存在し、それぞれ共鳴周波数が異なる。そのため、振動磁場の周波数を掃引すると、それぞれの共鳴周波数のところで、oblique Hanle信号の変化が観測される。この変化量を比較することで、核種ごとのNMRの強さを明らかにする。さらに、NMR技術をさらに発展させ、核スピンの2準位間のコヒーレント振動の観測、量子ビットの初期化や制御NOT動作などの核スピンを用いた基本的な量子操作の実現をめざす。
物品費の消耗品の購入計画に変更が生じたため。物品費の消耗品の購入に使用予定。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (17件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Phys. Rev. B
巻: 89 ページ: 014428(14ページ)
10.1103/PhysRevB.89.014428
巻: 89 ページ: 125116(10ページ)
10.1103/PhysRevB.89.125116
応用物理
巻: 83 ページ: 194~199
巻: 87 ページ: 184418(7ページ)
10.1103/PhysRevB.87.184418
巻: 87 ページ: 235205(7ページ)
10.1103/PhysRevB.87.235205
http://nsed.ist.hokudai.ac.jp/subject/subject.html