研究課題/領域番号 |
25286039
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
植村 哲也 北海道大学, 情報科学研究科, 准教授 (20344476)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 半導体スピン注入 / 核スピン / ハーフメタル / 半導体 / 量子ゲート |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、強磁性体から半導体への電気的スピン注入を利用し、 (1)エレクトロニクス素子の主要構成材料であるGaAsやInGaAsにおける、電子スピンと核スピンに関するダイナミクスを解明すること、(2)核スピンをナノスケールの空間分解能で制御し、かつ、高感度に検出できる素子を創出すること、さらに、(3)核スピンの量子力学的なコヒーレンスを活用した半導体量子情報デバイスの基盤技術を確立することである。 平成26年度は主に、 1)半導体スピン注入を利用した高効率核スピン偏極の実証 2)半導体チャネル中の核磁気共鳴による核スピン操作とその電気的検出 を具体的な目標とした。1)では、ハーフメタル性に由来する高いスピン偏極率が期待されるCo基ホイスラー合金のCo2MnSiをスピン源として用いることで、従来よりも一桁以上高い、GaAsへの高効率スピン注入を実現し、さらに、注入された電子スピンにより、その近傍の核スピンを高効率に偏極できることを実証した。核スピン偏極の検出には、核スピンの偏極に伴って発生する核磁場を電子スピンの歳差運動から検出する傾斜ハンル効果測定法を用いた。2)では核スピンの歳差周波数に共鳴した振動磁場を連続的に印加することで、核スピン偏極を消失させ、そのときの核磁場の変化を傾斜ハンル効果測定により電気的に検出した。本手法を用いて、これまでGaAs中の75As, 69Ga, 71Gaに対するNMR信号を検出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要欄において述べたとおり、H26年度の目標は、 1)半導体スピン注入を利用した高効率核スピン偏極の実証 2)半導体チャネル中の核磁気共鳴(NMR)による核スピン操作とその電気的検出 であり、これらはほぼ達成されたと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた成果をもとに、今後は、半導体スピン注入技術とNMRを併用した核スピンのコヒーレント制御の技術を確立し、核スピンを用いた量子ゲート操作の実証をめざす。具体的には、共鳴周波数のところに振動磁場の周波数を固定し、磁場の照射時間幅(パルス幅)に対するNMR信号の変化を測定することで、核スピンのコヒーレント振動の検出を行う。GaAs中の核スピンはいずれもスピン量子数が3/2であるため、4準位系を形成するが、それぞれの準位間は四重極子相互作用により等間隔ではない。4つの準位のうちの2つに着目し、これらに共鳴する振動磁場を照射すると、振動磁場が照射されている間、核スピンはコヒーレントに回転をし続け、その結果、NMR信号はパルス幅に対して振動する。この振動をコヒーレント振動と呼び、核スピンの量子力学的な重ね合わせ状態の実証となる。核スピンの場合、コヒーレント振動が消失するまでの時間スケールは一般にミリ秒オーダーであるため、振動磁場のパルス幅の制御は容易であると考えられる。さらに、コヒーレント振動の発現条件を系統的に調べ、先行研究である光学的手法や量子ホール系を用いた手法に対する本手法の優位性を明らかにするとともに、半導体スピン注入を用いた核スピン量子デバイスの構成法について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の消耗品の購入計画に偏光が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費の消耗品の購入に使用予定。
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