研究課題/領域番号 |
25286042
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
柳 久雄 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (00220179)
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研究分担者 |
香月 浩之 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (10390642)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超放射 / 量子コヒーレンス / 有機レーザー |
研究実績の概要 |
TPCO単結晶から観測される遅延時間を伴ったパルス型の狭線化発光の起源を明らかにするため、新たにp-sexiphenyl (p-6P)を用いて単結晶を作製して時間分解発光測定を行い、以下の成果を得た。 (1) パルス型遅延発光の結晶サイズ依存性 サイズが100-400μmの範囲で異なる菱形薄板状単結晶を作製し、その時間分解発光スペクトルの励起強度依存性を測定した結果、最大遅延時間は、125μmの結晶では20 ps、260μmの結晶では120 ps、385μmの結晶では180 psとなり、結晶サイズが大きくなるほど遅延時間が長くなる傾向が見られた。遅延時間の発生起源として、二次元薄板状の単結晶中に閉じ込められたp-6Pの発光と励起子に強い結合相互作用が生じていると考えられる。結晶が大きくなるほど、広い領域に分布した励起子と光の間に強結合が生じてマクロスコピックな集団励起子が形成するのに時間を要するため、遅延時間が長くなったと考えられる。 (2) パルス型遅延発光の励起依存性 結晶の長軸長さが143μmのp-6P単結晶を用いて、励起光の形状や励起方向を変化させて時間分解発光スペクトルの励起強度依存性を測定した。その結果、菱形単結晶の平行な両端面に対して垂直にストライプ励起した場合、最大遅延時間は20 psと短かったのに対して、菱形単結晶の短軸方向にストライプ励起した場合は20 ps、長軸方向にストライプ励起した場合は220 psとなった。また、菱形単結晶全体を覆うようにスポット励起した場合は、遅延時間が360 psと最も長くなった。通常、このような光と励起子の強結合は、波長サイズのマイクロキャビティにおいて起こるとされているが、今回、100μm以上のマクロスコピックなp-6P単結晶で明瞭な遅延時間が得られたことは、結晶中で一次元分子励起子の規則配列が効果的に影響していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、強発光性のπ共役オリゴマーである(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー(TPCO)の低次元結晶において室温で観測される時間遅れを伴ったパルス型遅延発光の起源を明らかにすることである。今年度の実施計画に上げた(1)パルス型遅延発光の観測と量子コヒーレンスの実証については、実績の概要で述べたように、今回新しい材料としてp-6P単結晶を用いて時間分解発光測定を行った結果、遅延時間の結晶サイズ依存性と励起依存性から、光と励起子の結合による量子コヒーレンスの空間スケールの影響が示唆されたことから、おおむね順調に進捗している。 2つ目の実施計画として、(2)TPCO結晶の微細加工と有機フォトニクスデバイスへの応用についても、すでに電子線リソグラフィ/反応性イオンエッチングおよびレーザーエッチングによりp-6P単結晶を短冊状に加工したキャビティを用いて時間分解発光測定を進めており、キャビティサイズに依存した遅延時間の変化が認められている。有機フォトニクスデバイスへの応用に関しては、p型およびn型半導体性を有するTPCO誘導体の積層蒸着膜を用いて有機EL素子の作製と評価を進めており、今後、TPCO結晶を用いた素子へと展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、TPCOの低次元単結晶において室温で観測される時間遅れを伴ったパルス型遅延発光の起源として、量子コヒーレンスが関与した集団励起子からの超放射であると考え、結晶サイズや励起法を変えて時間分解発光測定の励起強度依存性を測定してきた。その結果、通常、波長スケールのマイクロキャビティで起こるとされる励起子と光の強結合が、本研究で用いている100μmを超えるマクロスケールの結晶キャビティでも生じうることが分かってきた。励起子と光の強結合状態は励起子ポラリトンとして知られており、これまで主に半導体量子井戸を用いたマイクロキャビティを用いて低温下で観測されてきた。しかし、最近、有機材料を用いて同様の励起子ポラリトンの生成が室温で報告され、従来のエキシトン由来のフォトンレーザーに対して、より低励起閾値で発振する有機ポラリトンレーザーとして注目を集めている。本研究で観測されている遅延時間を伴った超放射現象も、励起子ポラリトンが関与した現象とみなすことができる。しかし、通常、励起子ポラリトンの生成は共振器を備えたマイクロキャビティ中で起こるとされており、本研究で用いている外部共振器をもたないマクロスコピックな結晶キャビティで本当に生成しているかは不明である。そこで、今後の研究では、TPCO単結晶キャビティをレーザー加工やリソグラフィ法を用いて波長スケールから100μmを超えるサイズまで連続的に変化させ、パルス型遅延発光のサイズ依存性を明らかにする。また、結晶中でキャビティフォトンと励起子が結合すれば発光の角度分散が現れるはずである。そこで、TPCO単結晶からのエッジ発光の角度分解スペクトルを測定することにより、光と励起子の間の結合状態を明らかにしていく予定である。それにより、従来のフォトンレージングとは異なり、より低励起閾値で発振する新たな有機ポラリトンレージングの可能性を探る。
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