TPCO単結晶の光励起発光において、量子コヒーレンスが関与していると思われる遅延時間を伴ったパルス型の超放射が観測され、その起源として発光と励起子が強い相互作用をもつことにより放射が増強するcavity-QED効果や放射レートが速くなるPurcell効果が示唆されている。しかし、このような効果は、波長スケールのマイクロキャビティに光と励起子が閉じ込められたときに起こるとされている。一方、本研究で用いてきたTPCO単結晶は100μm以上のサイズを有しており、このようなマクロススコピックなスケールにおいて、同様の効果が生じるかは未解明である。そこで本研究では、TPCOの類縁体で最もロバストな材料であるp-sexipenyl (p-6P)を用いて溶液成長により単結晶を作製し、この結晶をガラス基板上に固定した後、Nd:YAGレーザーパルスを照射することにより、一辺が5~100μmの正方形状のキャビティに加工した。また、フォトリソグラフィ加工を施すことにより幅が2および5μmの短冊状のキャビティを作製した。 これらの形状の異なるp-6P結晶キャビティをTi:Sパルスレーザーを用いて光励起し、蛍光寿命と発光スペクトルの励起密度依存性を測定した。その結果、これらの加工したp-6P結晶キャビティのサイズが小さくなるに従い蛍光寿命が短くなった。また、励起密度を上げると0-1蛍光帯が狭線化増幅した増強自然発光(ASE)が得られ、その励起密度閾値はキャビティサイズが小さくなるにつれて低下した。以上のように、キャビティ体積を制御したp-6P単結晶においてもPurcell効果とキャビティQED効果が認められたことから、p-6Pが一軸配向した単結晶においては、100μmのマクロなスケールにわたって発光と励起子の間に強い相互作用が生じていることが示唆された。
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