研究課題/領域番号 |
25286045
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
坂本 謙二 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 高分子材料ユニット, 主幹研究員 (00222000)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / 有機半導体 / 液晶性 / 光配向膜 / フロー・コーティング / 配向制御 |
研究実績の概要 |
前年度、光配向膜を挿入したトップゲート(TG)/ボトムコンタクト(BC)型のFET素子構造(石英基板/Azo-PI光配向膜/ソース・ドレイン電極/pBTTT活性層/ゲート絶縁膜/ゲート電極)の作製プロセスを検討することによって、移動度の向上、on/off比の改善を達成したが、同一基板上に作製した素子の特性に比較的大きなばらつきがあった(移動度の相対標準偏差で20%)。本年度は、デバイス特性のばらつきの原因を究明するための実験を中心に行った。素子特性のばらつきの原因がpBTTT活性層のフロー・コーティング時に発生している可能性が高いと推察し、実験を行った。製膜(フロー・コーティング)プロセスにおいて、デバイス基板の影響がもっとも少ない素子構造として、ボトムゲート(BG)/トップコンタクト(TC)型FETを選択し、120素子からなるFETアレイを同一基板上に作製し、そのデバイス特性のばらつきから、pBTTT活性層の基板面内の均一性を評価した。その結果、コーティングに使用するフッ素コートされたガラス・バーの撥液性のムラが、pBTTT活性層の不均一性の原因であることが分かった。フロー・コーティング・バーの撥液性のムラを低減することにより、平均移動度0.3cm2/Vsで、ばらつき(相対標準偏差)5%以下のBG/TC型FETアレイを作製することに成功した。このFETアレイにおいては、閾値のばらつきも小さく、その結果としてオン電流のばらつきも5%以下となった。この知見をもとに、次年度では、光配向膜を挿入したTG/BC型のFET素子の特性の向上ならびにばらつきの抑制を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Azo-PI光配向膜を挿入したFETの素子構造として、TG/BC型にターゲットを絞り、その作製プロセスの最適化、構成層の膜厚の検討を行うことによって、飽和領域においてアモルファス・シリコンに匹敵する電界効果移動度を達成した。更なる移動度の向上と理想的なFET特性の実現を目指すとともに、素子間の特性ばらつき要因の解明に取り組んでいる。本年度、フロー・コーティング・バー表面の撥液性のムラがBG/TC型FETアレイの素子特性のばらつきを誘因することを明らかにした。この知見により、TG/BC型FETアレイにおいても素子特性のばらつきの低減が期待される。また、より高い配向度のAzo-PI光配向膜を用いることによって、pBTTT層の高配向化が達成できる可能性があるため、Azo-PI光配向膜の高配向化プロセスの開発も並行して行っている。高配向化プロセスとして、アミン蒸気処理と光配向膜の極薄化を検討している。予備実験の結果から、極薄化が有望と考えている。若干の遅れはあるもののおおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、TG/BC型FET構造にターゲットを絞り、デバイス特性の向上と特性ばらつきの低減化を行う。TG/BC型FETアレイに対してもコーティング・バーの撥液性のムラ低減により、同一基板上に作製した素子の特性のバラツキが低減されると期待される。デバイス特性の向上に関しては、光配向膜の高配向化プロセス(アミン蒸気処理と光配向膜の極薄化の単独あるいは併用)を確立し、高配向光配向膜とフロー・コーティング法併用によるpBTTT膜の高配向化を実現し、電界効果移動度の向上を達成する。 解決すべき課題として、TG/BC型FETの飽和領域の電界効果移動度が強いゲート電圧依存性を示すことが上げられる。ゲート電圧を負側に印加していくと見掛け上の移動度が単調に増加していくため、現状において真の移動度の評価ができていない。pBTTTの分子配向制御による真の移動度の向上を実証するため、このゲート電圧依存性の起源を明らかにして理想的なFET特性を示すデバイスを実現する。そのために、FETの作製条件の最適化をさらに進める。 また、本年度得られたフロー・コートされたpBTTT膜の均一性に関する結果をまとめて論文投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
フロー・コーティング法でTG/BC型FETを同一基板上に複数作製した場合、比較的大きな素子特性のばらつきが発生していた。本年度は、この原因の究明に関する実験を精力的に行った。この実験では、フロー・コーティング・プロセスにおいて、デバイス基板の影響がもっとも少ない素子構造として、BG/TC型FETを選択し、120素子からなるFETアレイを同一基板上に作製し、そのデバイス特性のばらつきを評価した。この実験では、FETは熱酸化膜付シリコン基板上に形成したが、その際、シリコン熱酸化膜表面をオクタデシルトリクロロシラン処理し、撥水化(水の接触角109度以上)する必要があった。しかし、昨年度までルーチン的にできていた撥水化処理が原因不明でできなくなった。109度以上の水の接触角をルーチン的に達成可能な、新たなオクタデシルトリクロロシラン処理法を確立するために時間を要したため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度の予備実験の結果、Azo-PI光配向膜上のpBTTT膜の配向異方性は、Azo-PI光配向膜の膜厚に依存することが示唆された。高配向pBTTT膜を形成するためには、極薄Azo-PI光配向膜の利用が効果的であると考えた。そこで、究極の極薄Azo-PI光配向膜を形成するために、次年度使用額をLB膜作製装置購入費の一部として使用する予定である
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