固体冷凍機の開発を引き続き行った。トンネル接合の絶縁体特性の品質を考慮して、ノーマル側には強磁性体ではなく正常金属を用い、プロセスの改善を進めた。これまでの素子において冷却能力が上がらない主な理由となる、基板からの熱進入と絶縁体特性の品質の向上の2点を改善するために、suspend型の構造を持つ素子構造に設計を変更した。これは基板側から見て従来型ではノーマル側が一番近接していたのに対して、suspend型では超伝導体が近接する形に変えて、ノーマル部分はトップに置く構造に変化させたことに対応する。これに伴いプロセスにおいても大幅な単純化が可能となり、絶縁体特性も大幅に改善し、冷凍能力が劇的に向上した。固体冷凍器素子の到達温度を解析するために、輸送方程式、トンネル表式を組み合わせた解析手法を開発した。この解析手法をsuspend型素子に適用したところ、0.33Kのベース温度の動作において、到達温度が0.094Kとなり、高効率の冷凍器として動作してことが確認できた。また解析により現冷凍機において冷凍能力をリミットしているのは超伝導体に対する準粒子注入効果であり、これ以上の注入を行ってもペアポテンシャルの破壊が起こり、冷凍能力の向上が見込めないことが明らかとなった。よって対抗電極として強磁性体を用いることにより、接合部の特性改善を行っても冷凍器としての改善は見込めず、むしろ熱ドレインの高効率化こそがもっとも有効であることが明らかとなった。今後は強磁性体を熱ドレイン部に導入する素子構造の開発を行うことが重要である。いずれにしても、上記のように、当初の目的としていた冷凍能力を実現する固体冷凍器の開発に成功し、今後は応用を視野に入れた実装方法の検討を行うことになる。
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