研究課題/領域番号 |
25286050
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 静雄 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20135536)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境材料 / 結晶成長 / 省エネルギー / 電子デバイス・機器 / 多機能デバイス |
研究概要 |
「単結晶」酸化物半導体の薄膜および多層構造により、デバイス応用につながる新しい光・電子・磁気融合機能を創成することを目的として本研究を実施している。豊富な資源に支えられた元素を用いることと、「バンドギャップエンジニアリング」と「機能エンジアニング」の融合という新しい概念を基礎とする。成長には、安全な原料が利用でき、装置が簡単な「ミストCVD法」を用いる。これにより、環境に優しいことを特徴とする酸化物半導体によって新しい機能デバイスを実現するとともに、成長から廃棄までのプロセスにおける安全・安心・省エネルギーを達成し、地球環境に優しい半導体技術の開拓に寄与するところに本研究の意義がある。成果として期待されるデバイスとしては、超高耐圧パワーデバイス、室温動作スピントランジスタ、超高効率磁気トンネル素子などを考えている。 平成25年度の研究では、ミストCVD法が「単結晶」酸化物半導体の成長技術に叶うよう残留不純物を減少させること、およびデバイス実現に不可欠なサファイア基板上コランダム型alpha-(Al,Ga,In)2O3混晶の組成・バンドギャップ制御を行うことを目指した。得られた成果の概要は以下のとおりである。 (i) 装置の改良を行い、既存技術で優れた結晶性が得られているサファイア基板上alpha-Ga2O3薄膜を成長し、SIMS分析をもとに装置部品と成長条件を改良しつつ、残留不純物密度を従来の1/10程度に低減しえた。 (ii) サファイア基板上alpha-(Al,Ga)2O3およびalpha-(Ga,In)2O3薄膜を成長し、3.7 eVから7.8 eVまでのバンドギャップ制御を達成した。 (iii) 不純物ドーピングや混晶組成の制御により、10{18} cm-3台の伝導性を実現した。またalpha-In2O3を用いたMOSFETの基本動作を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画において、当初alpha-(Al,Ga)2O3のバンドギャップ制御を考えていたが、これをalpha-(Ga,In)2O3へと拡大することができ、この点において計画以上の進展と考えられる。他方ドーピングによる伝導性制御は、10{18} cm-3台のキャリア密度という計画段階での目標はクリアしたが、再現性の問題があり、ドーピング量による詳細な制御に至っていない。この点で計画よりやや達成度が低いと考えられる。もっともこの理由は、不純物密度が減少したとはいえ10{18} cm-3程度の量があり、この影響が大きいと考える。平成26年度以降では、この不純物密度を新原料の利用等で飛躍的に提言することを計画しており、またその予備的な実験に成功しているため、計画に沿った達成度は今後得られるものと考えている。以上の研究経過から、達成度を上記のとおり自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、残留不純物のいっそうの減少を図り、トランジスタ動作を実証する。具体的には以下のとおりである。(i) ミストCVD装置の改良を行う。また原料の高純度化、新原料の利用にも取り込む。これらの結果として、alpha-Ga2O3薄膜の残留不純物密度を10{16} cm-3台以下として、10{17{ cm-3台前半でのドナドーピングを制御する。(ii) サファイア基板上の高品質a-Ga2O3薄膜を用いたMESFETを試作する。さらに、(Al,Ga)2O3/Ga2O3ヘテロ構造を利用するMISFETを試作する。これらのデバイスに対して、高耐圧動作を実証する。(iii) 平成25年度の研究において、サファイア基板上alpha-In2O3が比較的大きい移動度とキャリア密度を示したので、このalpha-In2O3にわずかにGaを加えたalpha-(Ga,In)2O3を用いたトランジスタを試作して、デバイス特性の向上を図る。 平成27年度には、バンドギャップエンジニアリングに加え機能エンジニアリングにより材料の機能創成と応用を図る。例を以下に示す。(i) alpha-(Al,Ga,In)2O3薄膜と同じコランダム型結晶構造を持ち、格子定数の近いCr2O3、Fe2O3など磁性金属酸化物との混晶化を行い、酸化物半導体に新しい機能を付与することを目指す。また、FET技術との融合で、スピン注入とスピントランジスタ動作を達成する。(ii) 遷移金属酸化物としてFe3O4に着目し、その高品質化と界面特性に優れたFe3O4/MgO/Fe3O4トンネル接合の磁気抵抗効果の測定を行う。(iii) 研究を通じて得られた新しい知見をもとに、新しい機能が期待される酸化物薄膜を見出し、その成長と機能探索を行う。 以上の結果を取りまとめることで、本研究成果を将来の新しい学術分野の創成につながてゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では自作の装置を用いて高品質結晶を育成してゆくことが重要なプロセスで、毎年の研究計画で従来の結果を踏まえた装置改造を計画している。今年度は、原料供給装置の改良を計画し、次年度には反応装置の改良を計画していたが、流体の流れを総合的にとらえた改造が望ましいことがわかったため、今年度の計画と来年度の計画を一括して来年度に実施することにした。そのため、今年度の改造を断念し、その分が次年度の使用額として残った。 高品質結晶育成のための装置改良について、原料供給装置の改良と反応装置の改良を一体化して実施する。これにより、年度ごとに行うよりもより最適化された 原料の流れが実現され、当初の計画以上の品質の向上が期待される。
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