研究課題/領域番号 |
25286053
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
末光 眞希 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (00134057)
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研究分担者 |
吹留 博一 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (10342841)
焦 賽 東北大学, 電気通信研究所, 教育研究支援者 (80710475)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 3C-SiC / ヘテロエピタキシ / グラフェン / 表面化学反応 / 転位 |
研究概要 |
本研究は申請者らが開発した、Si 基板上に成長させた立方晶SiC 薄膜(3C-SiC)にエピタキシャルグラフェンを形成するグラフェン・オン・シリコン(GOS)技術の一層の向上をめざし、(I)3C-SiC 薄膜の革新的品質向上を通してグラフェンのグレインサイズの増大及び3C-SiC 薄膜の高抵抗化を同時に図り、(II)GOS を用いた電界ドープ・グラフェンデバイスを実証するものである。 初年度の平成25年度は上記(I)に注力した。まずGOS構造の断面TEM像観察を行い、(1)基板SiCの積層欠陥(SF)と表面粗さがグラフェンドメインサイズの制限要因になり得ること、(2)SiC表面は研磨によって平坦化できるが、大気圧Ar雰囲気下で1550℃ 5分の加熱処理を行えば薄膜状態でも平滑化が可能であること、(3)SFの起点はSiCとSi(111)基板との界面に局在する段差であること、を見出した。 次に、SiC/Si(111)界面の荒れは基板Siの外方拡散に由来することを認識し、(4)炭素とSiとの固相反応を用いた高過飽和度下でのSiC多核成長による界面平坦化を試みた。基板の昇温速度が低いとSiC核形成に先んじてSiが外方拡散することを見出し、急速昇温による優位性を確認した。さらに、(5)特定すべり面上にのみSFを優先して拡大することにより、他のすべり面上でのSF密度を低減できることをシミュレーションによって明らかにし、(6)実際に微傾斜Si(111)基板上にSiCのヘテロエピタキシャル成長を行って、傾斜方位に対応した特定のすべり面上にSFを集中できることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は申請者らが開発したGOS技術の一層の向上をめざし、(I)3C-SiC 薄膜の革新的品質向上を通してグラフェンのグレインサイズの増大及び3C-SiC 薄膜の高抵抗化を同時に図り、(II)GOS を用いた電界ドープ・グラフェンデバイスを実証するものである。平成25年度はこのうち(I)に注力し、グラフェンのドメインサイズを制限する要因の一つは基板3C-SiC中のSFであること、そしてSFの起点はSiC/Si(111)界面にあり、その抑制策は界面の平坦化であることを特定した。またこの知見に基づいて、当初予定になかった固相炭化に着手し、この方法の有効性を確認した。この変更のため、当初予定の選択成長(SEG)や横方向成長(ELO)への着手が後倒しとなったが、SFの根本的な解消としては妥当な判断であったと考える。 一方、特定すべり面上にSFを集中させれば他の面のSF伝播が抑えられることを計算によって確認し、その結果に基づき、従来技術の延長線上で実現可能な微傾斜Si(111)基板上におけるSF解消効果を予測した。このため、当初予定していた複雑な加工プロセスや複数のエピタキシャル成長を要する選択成長(SEG)や横方向成長(ELO)への着手に先立ち、同予測の検証を優先させた。その結果、SF密度の分布が傾斜方位によって制御可能であることを実験的に確認することができた。SF解消法の探索としては妥当な判断であったと考える。 SiCの電気的欠陥の特定に関しては当初予定していた具体的なアクションには至らなかった。これは、(1)上述のSF解消のアクションに注力したこと、かつ(2)貼合わせSiC基板(SiC on Insulator構造)のGOS利用に実験的目処がついたことによって、必ずしもSiCを高抵抗化する必要がなくなったことに起因する。 以上から平成25年度はおおむね順調な進展であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、(1)格子不整合に起因する積層欠陥発生の抑制、(2)マイクロチャネルエピによる積層欠陥の解消、(3)エピタキシャル・ラテラル・オーバー成長(epitaxial lateral overgrowth:ELO)による大面積化、(4)電気的活性欠陥発生の抑制、(5)SiCのフリースタンディング化、を行う予定である。 (1)では、急速加熱によ固相反応にってSiC/Si(111)界面の平坦化をさらに推進し、界面粗さRa<1nmをめざす。(2)では(1)を以ってしてなお残存するSFを解消するため、3C-SiCエピタキシャル膜中に不連続領域を設けてSFの伝播を遮る(マイクロチャネルエピタキシー)。(3)では、(2)によって形成される離散的3C-SiCをエピタキシャル・ラテラル・オーバー成長(ELO)によって横方向に成長させて大面積の無欠陥領域を得る。最適なELO成長条件を得るため、XTEM、SSRM、PL、EBIC、PEM、そしてエッチピット観察など微視的・巨視的評価を相補的に組み合わせる。(4)では、無欠陥SiC基板でもなお高温処理時に自発的に発生するShockley転位(SDL)を抑制するため、(1)SDLの運動抑制、②SDLを電気的に活性化ささるSDL間相互作用の阻止、を図る。(5)では、無欠陥SiC薄膜を厚膜化したうえでフリースタンディング化することにより、グラフェン形成工程における処理温度の上限(Si基板の融点)を大幅に広げ、より高品質なグラフェン形成を図る。このため、SiCを100μm以上に成長したうえでSi基板を溶解除去してフリースタンディング3C-SiC基板を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で構築する新結晶装置の基板回転ユニットの設計に当初予定以上の時間がかかり、その納品が次年度に繰り越されたため。 基板回転ユニットを購入して新規、結晶成長装置を構築し、当該研究の目的である3C-SiC結晶の高品質化に取り組む。
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