研究課題/領域番号 |
25286056
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
須崎 友文 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 准教授 (20332265)
|
研究分担者 |
柳 博 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (30361794)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 仕事関数 / 酸化物エレクトロニクス / 表面 / 界面 / デバイス / 触媒 / 薄膜成長 / パルスレーザー堆積 |
研究概要 |
半導体-絶縁体界面を利用した仕事関数変調を行った。まず、仕事関数変調効果が理論的、実験的に精力的に進められている酸化マグネシウムに着目し、導体基板上に (100) 配向膜と (111) 配向膜を同時に作製し、膜配向の仕事関数変調への効果を調べ、(100) 配向膜堆積の方が仕事関数減少が大きく現れることを見出した。(100) 配向膜堆積による仕事関数低減は、ワイドギャップ絶縁体である酸化マグネシウムのハードウォール型のポテンシャルが形成されることで、導体基板表面から染み出していた自由電子が基板内部側に押し戻されることで表面電気双極子の大きさが減少したためと考えられている。(111) 配向膜は、(100) 配向膜に比べると結晶性が悪いことが知られ、界面もそれほどはタイトに形成されていないと考えられるため、仕事関数低減が大きくは現れなかったと解釈できる。(111) 膜は、原子スケールで表面が平坦化すると陽イオンのみ、あるいは陰イオンのみというきわめて不安定な面となることが予想され、特異な電気的性質が期待できるが、ここで用いた導電性基板(ニオブドープチタン酸ストロンチウム)上では原子スケールでの表面平坦化は起こらず、(111) 原子面固有の効果は見えなかったと推察される。さらに、酸化マグネシウム内に形成される格子欠損に着目し、平衡状態から大きく外れた条件で薄膜を形成することで格子欠損を大量に導入し、さらなる仕事関数変調が可能であることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書においては、p 型、n 型酸化物半導体および絶縁体の薄膜積層構造を作製し、半導体界面におけるバンドベンディング、絶縁体分極層による電位制御を利用して固体表面の仕事関数を大きく変調することを目標としていた。数値的な目標として、表面絶縁層が 30 nm よりも薄い構造において仕事関数が 2 eV を下回る人工構造を作製することを目指していたが、極端な還元雰囲気下で酸化マグネシウムをニオブドープチタン酸ストロンチウム基板に堆積することにより、絶縁層の厚み 30 nm において仕事関数 1.93 eV を実現し、当初の数値目標を達成している。この結果は、パルスレーザー堆積法という汎用的手法の特徴を生かした成果であり、当該分野である酸化物エレクトロニクス研究にとって意義の深いものである。この達成をもって、これまでの達成度をおおむね順調に進展、と判断した。一方、細かい点では問題点は発生している。特に、酸化銅はp 型酸化物層として注目し、合成した単結晶を整形、研磨した表面を基板表面として利用すること、また一般的な導電性基板の上に p 型酸化物層の薄膜を合成することの二通りの方法で材料開発を行ったが、良好な材料表面が得られず、本課題で必要なヘテロ接合用の材料としてはまだ使えない状態である。バルク材料としては、銀ドープ、窒素ドープによる物性変調の様子を明らかにし、この特異な物質のポテンシャルについて知見を増やした。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きp型、n型酸化物半導体および絶縁体の材料の組み合わせを工夫し、半導体界面におけるバンドベンディング、絶縁体分極層による電位制御の効果を増強することで固体表面の仕事関数を大きく変調する。表面付近の界面を工夫することで表面特性を変調し、 酸化物の化学的な安定性を生かした安定な低仕事関数表面の実現を目指している。特に、室温でのパルスレーザー堆積法により、きわめて非平衡な状態での薄膜堆積が可能であり、多くの荷電格子欠陥が導入可能であること、さらに、導電性基板に形成される鏡像電荷により、絶縁体薄膜中の荷電格子欠陥が安定化することを利用し、絶縁体薄膜中に大量の荷電不純物を導入する。絶縁体中の荷電不純物と導体中の鏡像電荷により界面電気双極子が発生し、この効果により、仕事関数の大幅な変調を実現する。同時に、この効果を利用し、絶縁体薄膜材料においてバルクでは実現しないドープ状態を探索する。また、p型材料の探索を継続し、酸化物に加え、窒化物、カーボン系材料においても、パルスレーザー堆積法および分子線エピタキシー法、さらにディップコート、ドロップキャストなどの溶液プロセスにより、薄膜材料の探索を行う。特に、移動度が小さくても、アクセプタ濃度を大きく変調できる系を得ることが目的である。カーボン系については、酸化グラフェンを用いて良好な絶縁体被覆系を溶液プロセスで実現し、その上で窒素ドープによりドナー量を制御することを目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の数値的な目標である、「絶縁体被覆層が 30 nm 以下」という試料構造において、2 eV を下回る仕事関数が既存装置系を用いて実現できたこと、本課題の中心物質と期待していた酸化銅が、複数の方法を用いても所望の特性が得られず、高価な基板を用いてルーチン的に多くの試料を作るステップまでは進まなかったことが原因である。酸化銅においては、合成した単結晶を整形、研磨した表面を基板表面として利用することを目指したが、単結晶合成は他研究室から提供いただいたため、この部分での研究費は抑制された。 本課題において滞っている p 型半導体材料開発に注力するため、アンモニアなどの還元性ガス導入系を構築し、また、電子状態評価に威力を発揮する光電子分光装置を整備する。このような還元性ガスを用い、酸化物薄膜においてこれまででは実現してこなかった荷電格子欠損を注入し、新たな界面電子双極子を導入することで仕事関数変調を試みる。また、還元性の雰囲気を利用することで、酸化物に加え、窒化物、カーボン系材料を人工構造に取り込む。また、パルスレーザー堆積法以外にも、分子線エピタキシー法、さらにディップコート、ドロップキャストなどの溶液プロセスにより、薄膜材料の探索を行う。
|