研究課題/領域番号 |
25286058
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神吉 輝夫 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (40448014)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化物エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
ナノスケール電子相ドメインの「相転移」、「動的移動」、「空間配置」のトータル制御方法を確立するために、本年度では、下記の実験を行った。 1)強相関酸化物ナノワイヤー素子のナノ物性計測:全年度作製に成功したVO2ナノワイヤーに対して、原子間力顕微鏡(AFM) を用いて、電気伝導測定(C-AFM)、及び仕事関数測定(KFM)を行った。VO2の金属状態と絶縁体状態との仕事関数差を測定することができた。C-AFMによる電気伝導測定においても、金属-絶縁体の電気抵抗差を測定することができた。C-AFMでは、凡そ10nmの空間分解能で測定することが出来た。 2)ナノドメインの相転移・動的制御:VO2ナノワイヤーへ電流を印加し金属-絶縁体電子相界面のペルチェ係数差を利用した吸熱・発熱によりナノドメインの相転移制御を試みた。熱量収支の簡単なモデル計算から相転移に必要な電流密度を計算し、実際に理論見積りした辺りの電流を流したところ、金属から絶縁体、絶縁体から金属への可逆相転移を確認した。しかしながら、変化しない場合も多いため、ナノワイヤー幅、デバイス形状等の工夫により、制御性を上げる必要がある。 3)サイドゲート型ナノワイヤー電界効果トランジスタ(FET)動作の物理モデル構築:前年度に引き続き、サイドゲート型VO2ナノワイヤーFET において、大気中で電界を印加しチャネル抵抗を測定と評価を行った。電気化学反応により吸着水の電気分解された水素イオンがVO2チャネル内に添加され大きく電気伝導特性が変化するが、その理論構築に当たり、電界を考慮した拡散方程式と非定常状態を考慮したフィックの第二法則を取り入れることによって、精密に拡散の時空間変化を追うことが出来、電気伝導特性変化と良い一致を見ることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画で挙げた3つの項目(①強相関酸化物ナノワイヤー素子の物性測定、②ナノドメインの相転移・動的制御、③サイドゲート型ナノワイヤー電界効果トランジスタ作製と物理モデル構築)に関して、項目①において、C-AFMを用いて10nmクラスの空間分解能で、電気伝導測定ができるため、ナノドメインの挙動観察に必須な測定手法を計画通り構築できた。項目②に関しては、金属-絶縁体ドメイン界面において、ペルチェ効果による吸熱・発熱効果を取り入れた計算を行い相転移に必要な電流値を算定し、実験値と良い一致を示し、ペルチェ効果が相転移制御に有効であることが示唆される結果を得た。また、項目③においては、サイドゲート型FETにおいて、大気中の吸着水分子の酸化還元反応によるVO2ナノチャネルへの水素イオンドープとその拡散について、詳細な理論モデルを構築することが出来、酸化還元反応を利用したナノFETデバイスという新たな領域を切り開くことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、前年度に行ってきた実験結果を系統的に理解し、電子相転移の制御性を向上させていく。特に電界効果により個々のナノドメインの相転移制御を目指したナノデバイスの構築と特性評価に重点を置いて研究を行う。 ①VO2ナノワイヤー電界効果トランジスタ(FET)の構築:前年度までに構築してきたサイドゲート型VO2ナノワイヤーチャネルFETと共に、縦型固体ゲートFETも作製し、電界によるナノドメインの相転移制御に最適なデバイス構造を得る。 ②FET動作の評価:電界効果によって引き起こされる電荷蓄積によって“電子雪崩相転移”を計測し、ゲート電界に応じた電荷蓄積量と空間的な相転移規模を系統的に調べる。また、ナノワイヤーに一次元的に閉じ込められ整列したナノドメインに対して電界効果により相転移制御を行うことによって、金属-絶縁体一次元配列分布を自在に変えれるような制御技術を確立する。サイド―ゲート型FETに関しては、ナノ空間の相転移の拡がりをレーザーラマン顕微鏡、或いはC-AFMを用いて調べる予定である。 ③FET動作の物理モデル構築:電界効果によって相転移したナノ電子相が系全体に与える影響を電子相配列の変化等から調べ、温度・時間の系統的変化から電子相同士の相互作用についての知見を得る。 本研究によって、電子相ナノ部制のトータル物理モデルを構築し、ナノドメインの相転移制御方法の確立を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
特に物品費において、当初の見込み額と執行額が異なった。研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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