研究課題/領域番号 |
25286060
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
倉橋 光紀 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主席研究員 (10354359)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 表面・界面物性 / 酸素分子 / 立体効果 / 磁性 / 触媒 |
研究実績の概要 |
表面に対する酸素分子の向きは、表面への吸着確率のみならず、散乱分子角度分布や触媒反応収率、表面反応生成物にも影響することが予測され、本計画ではこれらを計測するための装置開発および実験計測を目的とした。本年度、散乱分子および触媒反応の計測を行い、以下の成果を得た。(1)散乱分子計測:差動排気した質量分析計と機械式チョッパーを用いた変調分子線法により高い信号対雑音比で状態選別酸素分子ビーム散乱実験を行える装置を整備した。表面凹凸が小さいAg(100)表面では散乱スペクトルに入射分子配列依存性はみられないが、金属表面より凹凸の大きいHOPG表面では分子配列依存性が明瞭に観測された。良く定義された凹凸をもつLiF(100)表面ではレインボー散乱が観測され、その挙動は入射O2分子の向きと入射方向により大きく異なることがわかった。入射条件により表面凹凸の感じ方が異なる点を基に本結果は理解できることを見いだした。(2)触媒反応計測:Pt(111)表面へのO2吸着およびCO酸化反応における立体効果計測を行った。本実験ではビーム照射時のO2吸着確率とCO2生成速度を同時計測する必要があるが、まず最初に、本測定に必要となる質量分析計および磁気シールドをセットアップし、高感度で反応立体効果を計測できるシステムを整えた。次にPt(111)表面へのO2吸着立体効果を調べ、0.1-0.2eVの低エネルギー条件では、表面平行分子の反応確率が垂直分子に比べ桁違いに高いことを見いだした。さらにCO吸着Pt(111)表面に状態制御したO2ビームを照射する実験を行い、O2吸着確率が高い立体配置においてCO2生成速度が大きいことを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画で目標とした散乱分子、触媒反応立体効果計測の基本的な部分は本年度までに実現できた。レインボー散乱の分子軸方位依存性を観測した事例は過去になく、今回が初めての観測例である。また白金表面での酸化反応は触媒分野において重要であり長年研究されてきたが、O2分子の向きが触媒反応速度に与える影響はこれまで不明であった。従って今回観測した顕著な立体効果は白金上のCO酸化機構を議論する上で重要な基礎データとなると予想される。高エネルギー条件でO2吸着確率が飽和する事実は白金/酸素系における謎の一つであり解明が望まれているが、我々は0.2eV以上で立体効果が減衰する挙動も見いだし、この挙動が問題解決の糸口になると考えている。これらの重要な実験データを得た点では予想以上の成果が得られている。一方、データ取得に時間を要し、今年度予定していた熱電対を試料とともに搬送するシステムの開発は未完の状態である。
|
今後の研究の推進方策 |
状態選別酸素ビームの並進エネルギー可変範囲は現状0.1-0.35eVと狭く、吸着確率測定限界も10-2程度である。従って本手法の適用範囲は現状、活性化障壁が低く、反応性が比較的高い表面に限られている。O2解離活性化障壁が高く、反応確率が低い表面へのO2吸着特性評価は近年の触媒研究において重要であるため、状態選別ビームのエネルギー範囲拡張と測定感度向上が今後の重要課題である。これを実現するため、六極磁子システムおよびシュテルンゲルラッハ実験装置の改良、長時間ビーム照射後の吸着酸素量から吸着確率を評価できるシステムの構築を図る。熱電対を試料とともに搬送するシステムの開発は本年度未完であったが、これも早急に実現し、試料温度制御と昇温脱離計測が可能なシステム開発を急ぐ予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ビーム強度調整用可動式チョッパー製作時、一部既存部品を転用でき費用が低減できたこと、本年度計画していた試料マニピュレータ改造を実施できなかったことの2点が未使用額を生じた主な原因である。
|
次年度使用額の使用計画 |
マニピュレータ改造を次年度中に実施予定である。未使用額は本改造費、試料温度制御用電源購入費に主に充当する予定である。今後、高エネルギー状態選別ビームを開発するが、これに必要となる加熱ノズル、六極磁子および微動機構の製作費用にも利用したいと考えている。
|