研究課題
本研究課題では、強相関電子系の巨大応答現象の背後に存在すると期待されている相分離・2相共存といったドメインの応答状態を、共鳴軟X線コヒーレント回折法により観測する手法の確立を目指す。H27年度は、H26年度に開発した試料自身でコヒーレントX線を切り出す実験手法を、実際の系に適用した。具体的には、磁場を介さない情報の消去・書込ができ、高速・低消費電力・高密度な次世代記録素子や演算素子として期待されているトポロジカルな磁気構造であるスキルミオン格子の観測に適用した。結果、共鳴軟X線散乱法によるスキルミオン格子の観測に成功した。この結果は、これまでに報告されていた電顕や中性子回折の結果と比較して、放射光ならではの非常に高角度分解能での観測法であることを示すとともに、共鳴信号が非常に強くフレームレート(10Hz)でのリアルタイム観測を実現させた。この特徴を生かし、磁場変化後の数秒間での格子緩和に付随したスキルミオン格子の回転というカイネティクスの存在だけでなく、磁場の上げ下げで異なる緩和過程を示すことも明らかにした。さらに、コヒーレント回折イメージング法を適用し、磁場に対するドメイン変化の評価を行った。結果、PFで利用できるコヒーレントX線でイメージングが行えることを示すことが出来た。ただし、X線照射領域全体がほぼ単一ドメインになっているため、本来の意味のイメージングは出来なかった。その他、マンガン酸化物人工超格子における共鳴軟X線散乱による電子状態の解明や、共鳴軟X線散乱によるLaCoO3薄膜の特異な表面状態の解明を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的である共鳴軟X線コヒーレント回折法により観測する手法として、試料自身でコヒーレントX線を切り出す方法がほぼ確立でき目的の1つは達成された。また、得られたコヒーレント回折像から実像に戻す方法として、位相回復アルゴリズムを適用することで、実像が得られることも確認することができた。ただし、上述のように、X線照射領域全体がほぼ単一ドメインになっているため、本来の意味のイメージングにはなっていない。今後、その他の系に本手法を適用していく。また、X線ホログラフィの手法も適用してみたが、コヒーレント回折の方が測定対象の観測に適していることが分かった。一方、4象限スリットを用いたコヒーレントX線の切り出し実験は、真空中で駆動させる機器を既存の回折計に対応するように設計するところで時間がかかった。特に回折計を制作したメーカーの担当者と、軟X線用回折計の真空槽内に4象限スリット設置するためのステージの設計を進めてきていたのだが、担当者が事情により退社してしまった。このため年度内の製作を見合わせた。
本研究課題では、「軟 X 線領域でのコヒーレントX 線の利用は、硬 X 線と比べて波長が長く、長いコヒーレント長を比較的容易に得られるのがメリットであり、多少輝度が良くない PFでもコヒーレント X 線が利用できること」に着目し、研究を進めてきた。結果、すでに述べてきたように、PFでのコヒーレントX線の利用が可能であることを示した。今後は、残された課題である、4象限スリットを用いたコヒーレントX線の切り出し実験を実施するため、4象限スリット設置するためのステージを新規に設計・製作し、実験を実施する。
4象限スリットを用いたコヒーレントX線の切り出し実験に向け、軟X線用回折計の真空槽内に4象限スリット設置するためのステージを、回折計を制作したメーカーと検討してきたが、設計を担当していたメーカーの担当者が事情により退社してしまった。そのため、改めて、設計打ち合わせから他メーカーで進める必要が出てきたため、年度内に製作することが出来なくなった。
4象限スリット設置するためのステージを、H28年度に新しいメーカーと相談の上、新規に設計・製作する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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