研究課題/領域番号 |
25286092
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
香村 芳樹 独立行政法人理化学研究所, 放射光科学総合研究センター, ユニットリーダー (30270599)
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研究分担者 |
田中 義人 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (80260222)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 物性実験 / 物性理論 / 結晶光学 / 粒子線・X線 |
研究実績の概要 |
我々が、平成26年度に達成した研究成果は以下の三点である。まず第一点として、「X線波束の異常シフト現象を利用した光学素子開発」を行った。入射角をブラッグ条件近傍とし、歪んだ単結晶を通したX線ビームは、シフト量が大きく結晶の縁に達する成分と、ほとんどシフトを起こさず透過する成分に分かれる。これらの二ビームは、出射位置が空間的に異なる。昨年度は、ピエゾ素子の精密駆動で結晶格子歪みをコントロールするシステムを構築した。このシステムを利用し歪み制御を行い、これらの二ビームをほぼ瞬時に切り替えられる事を示し、シフト成分と透過成分を500Hzで交互に出力する光学システムを実現した。 第二点として、この二つのビームの出射角度を、それぞれ結晶による角度アナライザーを用いて測定し、ほぼ二ビームが平行である事を確認した。二ビームは、間にブラッグ反射角である20度程度の角度がついており、また、全く異なる経路を通るにも関わらず、平行だった。本研究のテーマである異常シフト現象において、X線の波数ベクトルは結晶伝播中も変わらず、X線の位置のみが変化すると、ベリー位相理論(Sawada et al., PRL, 2006)で予言されている。我々は、X線横すべり現象と呼んでいるが、この本質である波数ベクトルの保存を直接示す重要な研究成果を得た。 第三点として、X線領域での「ベリー位相項の可視化研究」を行った。歪み結晶に由来するベリー位相項を可視化するため、結晶に対するX線の入射角をブラッグ反射条件近辺で変化させ、その角度依存性を調べた。実験セットアップに改良の余地が有り、まだ、本来のベリー位相項を可視化したとは言い切れない状況にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X線波束の異常シフト現象を利用した光学素子開発では、結晶格子歪み制御を利用し、高速スイッチング素子や強度変調器の実現を目指した、シフト成分と透過成分の高速切り替え実験を世界で初めて行い成功した。平成26年度には、500Hzで働く光学システムを達成する事が出来た。シフト成分と透過成分はお互いに平行であり、二ビーム間の距離も1mm程度しか離れておらず、利便性が高い事が示せた。一枚の結晶光学素子で、この様な高速スイッチング素子や強度変調器を実現できる事を示せたのは、大きな意義があると考えられる。ただし、放射光施設ユーザー実験では、100kHzから1MHz程度の素子が要求されると考えられる。今後は、さらなる高速化を目指して、開発を進めたい。 第二のテーマである、ベリー位相項の可視化のためには、無歪み結晶で見られるブラッグ反射条件近傍の広義の屈折率による位相項を精度よく測り、その位相項からの差分を検出しないとならない。測定システムの安定化については、十分な検討が出来た。ただし、実験条件の選定に改良の余地が有り、まだ、本来のベリー位相項を可視化したとは言い切れない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
X線波束の異常シフト現象を利用した光学素子開発では、結晶格子歪み制御を利用し、高速スイッチング素子や強度変調器の実現を目指した、シフト成分と透過成分の高速切り替え実験を世界で初めて行い成功した。平成26年度には、500Hzで働く光学システムを達成する事が出来た。平成27年度は、結晶面へのLASER光照射によって、結晶面にフォノンを発生させるなどして、高速の歪み制御を行い、放射光施設ユーザー実験で要求される、1MHz以上の高速スイッチング素子や強度変調器を実現しようと考えている。 第二のテーマである、ベリー位相項の可視化のためには、無歪み結晶で見られるブラッグ反射条件近傍の広義の屈折率の変化による位相項を精度よく測り、その位相項からの差分を検出しないとならない。測定条件、試料の歪み量の調節には、まだ改良の余地が有る。平成27年度は、広義の屈折率による位相項を極力小さくする測定条件での試験を行い、試料についても歪み量が大きい条件から、小さい条件まで、広く試験する予定である。これによって、初めて、ベリー位相項の正しい可視化が可能になる。平成27年度にセットアップの改良を進め、成功させたい。
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