研究課題/領域番号 |
25286100
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中谷 彰宏 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50252606)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 計算力学 / 変形体力学 / シュミレーション |
研究実績の概要 |
構造敏感性を有する材料の健全性を予測可能にする創造的な計算力学的方法論の実現には、基礎理論やアルゴリズムが想定外の結果を発見できる能力を有しており、かつ、現象のモデリングに対して先験的な知識を必要としない方法論の構築が望まれる。同時に、信頼性の保証や誤差評価が可能で、解析者が目標として設定する強度をできるだけ精度良くかつ効率的に獲得できるようアダプティブに自ら適切な方法論を作り出していく理論体系の構築が望まれる。このような多様な要求を実現するために、本研究課題では、格子不整合構造の階層性に着目した変形体の健全性評価のための計算固体力学理論を構築することを目的として研究を行っている。 平成26年度は、前年度に継続して、変形体のミクロな構造変化とマクロな不安定性との相関を調べるために、方程式フリー法(equation-free method)によるナノコラム(柱)の座屈解析を行った。基本問題として、原子集合体モデルを考え、ミクロ構造の時間発展からマクロ特性とマクロに現れる座屈現象を解析するための方法論を構築を進め方程式フリー法の妥当性を検証した。また、結合の離散性に着目したマルチスケール計算破壊力学に関する研究を行い、き裂先端のミクロ構造変化によるエネルギー散逸を含む広義の表面エネルギーを表現する凝着域(cohesive zone)モデルを構築した。具体的には構造に固有の離散性と階層性(枝分かれ構造)による見掛け上のFPZ の寸法や強度の変化を解析し、微視構造がマクロ特性に与える影響を調べた。また原子集合モデル、格子欠陥集合モデル、一般化連続体モデルの多段階層に対して、破壊力学とのアナロジーから、構造の時間発展に関係するエネルギー解放率に相当する駆動力の表現を導くことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
方程式フリー法による変形体の力学問題の解析に成功し、分子動力学法による(近似を行わない)解析と比較することにより、両者の一致を確認した。研究の成果は研究目的の計算固体力学理論のための新しい粗視化モデルを構築する礎となることが期待される。また破壊の凝集域モデルの定式化において、交付申請時に計画した損傷力学に基づく表現を導出することができたことも特筆すべき点である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに実施した「高次格子不整合構造に着目した非弾性変形解析理論に関する研究」と「結合の離散性に着目したマルチスケール計算破壊力学に関する研究」の知見を踏まえて,摩擦や損傷、すなわち、エネルギー散逸を伴う現象に応用する。具体的には損傷力学に基づいた凝集域(Cohesive Zone)モデルの定式化を行い、多層構造の層間剥離を伴う変形挙動と力学特性、き裂面に摩擦を伴う破壊現象を解析する。この微視的な構造の力学解析から巨視的な特性を解明する方法を一般化し、原子集合モデル、格子欠陥集合モデル(原子空孔・転位などの狭義の格子欠陥だけでなく、き裂、界面、さらには、材料全体の変形を意味する広義の格子欠陥)、連続体モデルの多段階層に対して、破壊力学とのアナロジーから、駆動力を用いた構造の時間発展を解析する。そして定式化と数値計算の中での粗視化モデルと基本問題との間で誤差評価・精度保証を行う方法論を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
凝集域モデルの定式化を中心とした理論研究と計算力学解析のためのシミュレーションコードの開発を中心に研究を行った。そのため当初予算として計上していた物品費と旅費の支出予定分は翌年度使用分とすることが適切であると判断されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度までの研究成果をふまえ、新規に大規模計算を行うための計算機等を購入するとともに博士後期課程学生を研究補助者として任用して研究を進める。得られた結果をまとめ国内外の学会で積極的な成果発表を行う。そのための物品費、研究補助者人件費、旅費について、本年度の次年度使用額と翌年度分として請求した研究費とを合わせて使用する計画である。
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