研究実績の概要 |
1990 年代Chas, Sullivanにより創始されたストリングトポロジーは, ループ空間の(コ)ホモロジーに現れる代数的構造を研究対象としている。今日, その(コ)ホモロジー上には2次元位相的量子場理論(TQFT)やホモロジー的共形場理論(HCFT)構造が見出され, ループホモロジーの持つ豊かな情報に多くの研究者は魅了されている。 本研究では, 多様体のストリングトポロジーを, Felix, ThomasによるGorenstein空間上の導来ストリングトポロジーに拡張しTQFT, HCFT構造について考察を進めてきた。Lie 群の分類空間はGorenstein 空間の重要な例である。従ってChataur, Menichi により展開された連結Lie群Gの分類空間BGのHCFTも導来ストリングトポロジーの枠組で論じられる。27年度はChataur, Menichiの一般論を正確な次数づけを持って書き直し, Lie群の分類空間上のストリングトポロジー, すなわちループコホモロジーH*(LBG)に現れる次数付きBatalin-Vilkovisky(B-V)代数構造の解明を進めてきた。特に写像類群のランタン関係式が誘導するB-V 代数構造をある適切なLie群の場合に明確に決定することで, HCFT構造を生み出すPROPの係数が決定できることがわかった。これにより, 分類空間のストリングトポロジーのHCFT構造の解明が進むことが期待される。また単連結空間Xのコチェイン複体と, Xの基点付きループ空間のチェイン複体から得られる導来圏の双対性に関する結果を論文として発表することができた。この結果により, Blumberg, Cohen, Telemanのストリング圏に関する結果を多様体のレベルから単連結空間に一般化できることになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
加群微分子による分類空間上のストリングトポロジーの考察に関しては, 研究協力者である Luc Menchi氏(フランスAngers大), 内藤貴仁氏(東京大学)と連絡を取り合い着実に研究を進めている。特にMenchi氏を2月信州大学に招聘し, 内藤氏と共に一週間の集中的セミナーを行なうことで, 分類空間上のストリングトポロジーに関して一般論の構築を進めることができた。特にファイーバーに沿う積分写像の次数を考慮したKoszulサインに基づき, 考察を進めた。これは昨年まで進めてきた, Eilenberg-Mooreスペクトル系列による計算では捉えられなかった現象を調べる術を得たことになり, 今年度の研究成果は大きい。さらに次数付き分類空間上のストリングトポロジーのHQFT構造を明らかにしつつある。実際, 加群微分子を応用した分類空間のストリングトポロジーの具体的計算により, Lie群の整数係数ホモロジー群がねじれ部分を持たない場合, そのモデルケースのHQFT構造を明らかにしている。また, 先に述べた導来圏の双対性の結果とH-空間のストリングトポロジー及びGorenstein空間上のTQFT構造を与える十分条件に関する結果とを合わせて, 現在一つのプレプリントにまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間も後半に入り、第3の目的である「Lie 群の分類空間のループコホモロジーにおけるBatalin-Vilkovisky(B-V) 代数構造の決定」を着実に進める計画である。研究協力者である Luc Menchi氏と内藤貴仁氏とは連絡を取り合い, 有理ホモトピー論からも導来ストリングトポロジーへの新たな着想を得ながら, 本研究を進めている。分類空間のホモロジーがトージョンを持つLie群の場合も具体的計算を進めループコホモロジーのB-V代数構造を研究期間内に決定する予定である。またChataur, Menichiにより「分類空間のループホモロジーとそのLie群の鎖複体のHochschildホモロジーはGerstenhaber代数としては同型である。」と予想されている。Gerstenhaber代数構造はB-V代数構造から従う。従ってこの予想が正しいか否かを, 現在進行中の計算を持って具体的に検証したい。
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