散乱現象に関する逆問題を連続モデルから離散モデルまで一貫した観点から研究した。非コンパクトなリーマン多様体と、摂動をうけた格子上のシュレーディンガー作用素に対する S 行列がこれらの多様体の有限部分における境界値問題のディリクレーノイマン写像と同値であることを導き、逆散乱問題を境界値逆問題に帰着させた。これにより散乱問題の連続モデルと離散モデルに完全なアナロジーが成立することが示された。具体的には、まず一般的な計量を持つ非コンパクトな多様体上で、一つのエンドに対応するS行列の成分からリーマン計量を再構成した。計量の無限遠での挙動は考えうる自然なクラスの中では最も広いものであり、双曲計量を含む遠方でend の体積が指数的に増大する正則な end やカスプも含んでいる。また数論に現れるオービフォールドもこの多様体のクラスに含まれる。離散モデルにおいては、六角格子を含む局所的に摂動された格子上でのシュレーディンガー作用素に対するS行列から、コンパクトな台を持つポテンシャル、あるいは格子の欠損を再構成する逆問題を解決した。これは現在、固体物理学で活発に研究されているグラフェンの例を含むものである。また古典物理学における散乱問題において電磁波に対する逆問題を考察した。無限遠の近傍では真空の場合と一致し、有限領域では任意の異方性を許す媒質の中でのマックスウエル方程式の逆散乱問題において散乱作用素から領域の境界の一次元ベッチ数を定める逆問題を解決した。この結果はユークリッド的エンドを持つ非コンパクト多様体上のマックスウエル方程式にも拡張される。
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