研究課題/領域番号 |
25287021
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松崎 克彦 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80222298)
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研究分担者 |
中西 敏浩 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (00172354)
須川 敏幸 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (30235858)
佐官 謙一 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70110856)
小森 洋平 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70264794)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タイヒミュラー空間 |
研究実績の概要 |
普遍タイヒミュラー空間のいくつかの部分空間について,剰余類分解がベアス埋め込みにより,線形部分空間によるアファイン葉層化と完全に対応することを証明した.この結果は,対称写像からなる部分空間については既に知られている重要な結果であり,漸近的タイヒミュラー空間のベアス埋め込みの単射性を保証するものである.2乗可積分タイヒミュラー空間に関して,普遍タイヒミュラー空間の剰余類分解とヴェイユ・ピーターソン計量に関する連結成分への分解との対応については Takhtajan-Teo により示されていたが,今年度の研究では,一般に p 乗可積分タイヒミュラー空間に対して,上記のベアス埋め込みでの対応関係を証明した.また,任意の指数のヘルダー連続微分をもつ円周の微分同相写像からなる部分空間に対しても同様の結果を得た. これまでの研究課題では,対称写像による微分同相写像群の共役に関する剛性定理を定式化し,微分同相写像によるメビウス変換群への共役が存在するための必要十分条件について考察していた.剛性定理のもうひとつの応用として,フックス群の微分同相写像群のなかでの変形空間によい構造を与える問題について今年度は取り組んだ.そのためにまず,対称写像のなかでの変形空間に,円周上の群不変対称構造のタイヒミュラー空間としての複素構造を与え,擬等角タイヒミュラー空間論の枠組みでの基礎理論を整備した.微分同相写像群のなかでの変形空間をこのタイヒミュラー空間に埋め込むために,上記のベアス埋め込みが双方の剰余類の構造を保つという結果を応用した. 微分同相写像群のクラスとしては,これまでヘルダー連続微分をもつものを扱っていたが,高階の滑らかさをもつ写像に関しても一次元力学系理論を用いて拡張できることを示した.剛性定理における微分可能性度の昇級について,これまでの複素解析的証明はこれで置き換えることが可能になった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で残された大きな問題は,p 乗可積分タイヒミュラー空間に定義された拡張されたヴェイユ・ピーターソン計量のフィンスラー計量としての幾何学的な性質を考察し,距離関数の凸性,距離空間の正規構造などを証明することである.そののち,この空間の等長変換群の固定点性質を証明し,可積分対称写像によるメビウス変換群への共役の存在を帰結する議論は大筋が完成している.本年度の研究では,この前半部分の課題については少しの進展があったのみであるが,後半部分に付随する議論が別方向に大きく発展した.その意味では,課題全体としては研究が順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究目標に関しては,拡張されたヴェイユ・ピーターソン計量の幾何学的性質の未解決部分について多少の手がかりが見えたので,問題を整理し再度の挑戦を敢行する.加えて,以下の問題も考え,理論全体の広がりをつくる.フックス群の微分同相写像群への表現の剛性定理は,高階の微分可能性を仮定すればそれはフックス群の自明な共役に限ることを主張するものである.これをタイヒミュラー空間論から説明するために,微分がヘルダー連続性をもたない C1級に近い微分同相写像を判別するタイヒミュラー空間を考察する.新たに歪曲係数が log オーダーの減衰に対応する写像のタイヒミュラー空間を構成する.
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次年度使用額が生じた理由 |
成果発表のため参加する計画にしていた研究集会に,研究の進行の都合により参加しなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
得られた成果については引き続き公表する機会を求めて,国内外の研究集会に参加する.そのための経費として使用する.また,新たに発展した研究計画については,研究連絡が必要になるため,そのための旅費として使用する.
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