研究課題/領域番号 |
25287026
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西成 活裕 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40272083)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 渋滞 / 交通流 |
研究実績の概要 |
これまで研究してきた車の渋滞吸収走行に関して、渋滞吸収車がリアルな条件でどのように振る舞えば渋滞を緩和できるのかについて理論が完成し、論文で発表することができた。そして渋滞吸収をする車が二次渋滞を作らず、かつ渋滞を消すことができるロバストなパラメータ範囲を発見した。また車への情報提供に関して、複数あるルートでの経路選択に関して研究し、単純な数理モデルを用いて渋滞緩和のための最適な情報提供の方法についても論文にまとめた。さらに実際の車の流れでは、トラックやバイクなどの様々な車種があり、そうした不均一な車の流れについてのモデル化を目指して実験を行い、基礎的な追従特性を取得し、その統計的な分析を行った。 人の流れについては、まず新しい追従モデルを検討し、その不安定性などを数理的に分析して論文にまとめることができた。また、実際の混雑流れの分析を行い、狭い通路での対向流においてデッドロックが起こる現象を見出した。そして対向流で混雑が発生する臨界の交通量についてのデータを得ることができた。またその流れをモデル化し、これらの観測された特性を再現することにも成功し、この結果を論文に発表した。さらに人の流れをリアルタイムにモニタリングする研究を行い、混雑を未然に予測する方法について考察した。 基礎数理としては、モデルに使われているセルオートマトンに粒子の出入りを考慮した系で、定常状態に至る緩和過程について厳密な解析に成功し、緩和時間等を求めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
車や人のモデリングや、渋滞の予兆を捉える理論はほぼ完成しているが、その検証が不十分である。特にコントロールされた環境下でまず実験を行い、理論を検証する段階で、様々な状況下でのデータが不足している。そのためにこれまでの実験だけではなく、新たに追加実験を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
車の基本的な数理モデルの作成は完了したが、実際にそれを用いて渋滞緩和方策を考えるには、やはりトラックやバイクなどの存在などの不均一性をきちんと考慮しなくてはならない。これまでは主として普通乗用車同士の場合の車間距離と速度の依存性を研究してきたが、不均一流れではこれまでの結果が使えない。そのため、こうした複雑な交通流のデータ分析が必須であり、今後は様々な不均一系での実験を行うとともに、公道での実際の交通流観測が不可欠である。そして単純な1次元流れではない車の流れの特性を洗い出したい。 次に群集の集団行動に関しては、通路での曲がり角や階段、そしてボトルネック等を通過する際のミクロな挙動についてのデータがまだまだ不足しており、様々なコントロールされた状況下でのこうした環境の実験を行う予定である。それらを用いて現在構築しているフロアフィールドモデルに含まれるパラメータをすべてきちんと推定し、さらにモデルの拡張も行いたい。特にグループが存在する場合や、高齢者がいる場合の流れは、これまでの均一な流れの知見では理解できず、こうしたデータの取得が急務である。よりリアルな環境への応用を考えると、車も人の流れについても、不均一な状態において、渋滞へ相転移する臨界密度など重要パラメータを再検討するとともに、それに合うように理論の拡張が必要である。そうした研究を通じて、リアルタイムに渋滞を未然に回避する方法や、情報提供のあり方、そして渋滞解消のためのインフラなどについて考察していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
車及び人の実験を予定していたが、多忙が重なったことと実験機材の故障等により両実験が当初の計画通り行えなかった。また実験担当者同士の打合せも十分できなかったため、安全上と研究上の精度の理由で実験は延期せざるを得なかった。そのため、実験用の予算を確保し、次年度においてさらに精度を上げた実験を準備する決断に至った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度において、群集実験を2回、そして車の実験を2回行う予定である。群集実験は、50名程度の被験者に対して複数の経路選択をしてもらう行動をし、その際の情報提供効果を調べる。また、曲がり角や階段などの場所を歩行してもらい、その数理モデル化の精度を検証する。 車の実験に関しては、よりリアルな環境で行うために普通乗用車だけでなく、トラックやバイクが混在した環境下での追従走行について、実験と観測を行う予定である。実験はサーキットを借りて複数車両を用いて行い、様々な配列パターンによって追従挙動を分類したい。また観測では、東南アジアでの混雑した交通流をビデオ撮影して実際の車線変更の様子等を調べる。
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