本年度はこれまで延期されていた車と群集の実験を行い、有意義なデータを取得することができた。前年度までで車の基本的な数理モデルの作成は完了し、渋滞の予兆についての理論が完成した。それを実際に社会で応用していくためには、様々な車種の車や運転手の挙動の違いも考慮に入れなければならない。この車の不均一性はこれまであまり研究がなされていないものであった。そこでデータを取得するためにトラックやバイクなどを入れた車の追従挙動について実験を行い、通常の車どうしでは見られない車間距離の調整挙動を新たに見出すことに成功した。そしてこうした結果を数理モデルに取り入れるには、どのパラメータに注視すべきかについても明らかにした。前方者がトラックかバイクかで車間距離の取り方が変わることはこれまであまり考慮されておらず、それをデータに基づいて解析できたことは、今後の社会実践を進めていく上で意義深い成果であるといえよう。 また、群集の集団行動に関しては、通路での曲がり角でのボトルネック的挙動について、実験データを得ることができた。その際に、体をどのように回転して状況に対応しているかについて、ジャイロセンサーを用いて測定することに成功した。これに基づいて、現在当研究室で提案しているフロアフィールドモデルをどのように拡張したら良いかについても指針が得られ、実験や観測結果を再現することができるようになった。 さらに交通情報提供の実験も行い、空いている道路の情報をドライバーに教えた場合にどのように行動を変化させるかについての知見も得られた。そして渋滞を回避するために複数の道路を交互に選択してしまうハンチング現象について、その発生条件も見出すことに成功した。この非効率な情報提供を避けることも今後の実践を考えていく上で重要である。
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