研究課題/領域番号 |
25287033
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
峰崎 岳夫 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60292835)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 補償光学 / 光赤外線天文学 / 望遠鏡 |
研究実績の概要 |
本研究は市販製品を応用して中小口径望遠鏡に適した安価な可視波長域用の補償光学装置を開発し、ハッブル宇宙望遠鏡や大口径望遠鏡における近赤外線補償光学装置に匹敵する高い角度分解能の画像を得ることを目的としている。一昨年度には ADAPTICA 社の補償光学キットを購入し、これに附属する可変形鏡の動作試験を行った。この結果、大気由来の波面揺らぎを補正するには鏡の変形量が十分でないことが判明した。京都産業大学の補償光学装置での実験においても、同様の結論が得られている。そこで昨年度は、より変形量の大きいソーラボ社の新製品である DMP40 という可変形鏡を購入した。同じ機材を京都産業大学でも採用しており動作試験中である。この DMP40 の採用を前提に、チリ国アタカマ高地にある主鏡口径 1m の東京大学 miniTAO 望遠鏡に設置を前提に、我々の補償光学装置の基本設計を行った。DMP40 は tip/tilt 機能を持つが、それが大気揺らぎに対して十分な振幅をもつことがわかった。このことは補償光学装置設計において tip/tilt 専用鏡およびそのための再結像光学系を削除することを可能にし、結果としてシンプルでコンパクトな光学解を得ることに成功した。内部光学系設計には特殊なものを採用していないため、レンズなど光学素子の大多数について安価な市販製品を採用することができる。このため本研究課題の目論みのとおり、費用を安価に抑制できる見込みである。本基本設計を踏まえて、カメラ、フィルターなどの主要機材の購入を行った。フィルターはいわゆる R バンドに相当する波長で、光学系アライメントや波面基準光源となるレーザーが透過する波長帯である。また透過波面精度仕様を重視して特注し、十分に仕様を満たすものが完成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ADAPTICA 社の可変形鏡 Saturn DM の変形量がカタログ値よりも実質的にはるかに小さく、大気揺らぎの補正に不十分であったことが一つの理由である。本製品が鏡面形状の再現性に優れていることは確認され、高い制御性をもつであろうと期待され小さい波面収差の補正には有用であろうが、天文学への応用は難しいと思われる。この時点で可変形鏡の再選定を行ったために計画に遅延が生じた。また、東京大学 miniTAO 望遠鏡が昨年度は運用されなかったことも計画の遅延のもう一つの理由である。比較的早い時期に miniTAO 望遠鏡の運用方針が判明したため、全体として室内実験を優先した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は新しい可変形鏡を使用し、基本設計に基づいて補償光学装置の製作を行う。室内実験で動作確認をしたのち、広島大学口径 1.5 m かなた望遠鏡に取り付けて、星を導入して実際の大気由来の波面揺らぎを補正する実験を行う予定である。miniTAO 望遠鏡ほどではないもののかなた望遠鏡は国内有数の優れたシーイング条件を誇り、望遠鏡焦点の F 比も miniTAO 望遠鏡に一致している。これらのことから、チリ国アタカマ高地に補償光学装置を輸送するまえの国内試験として最も適している。すでに広島大学側には了解を得ている。その後の方針は miniTAO 望遠鏡の運用状況による。miniTAO 望遠鏡が適切な時期に運用されるようであれば、国内試験後の補償光学装置を輸送し現地で観測を行う。miniTAO 望遠鏡の運用が難しければ、国内のシーイング条件に合わせてより補正項数の多い可変形鏡を導入し、高次の波面収差補正が可能になるように補償光学装置の改良を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ADAPTICA 社の可変形鏡 Saturn DM の変形量がカタログ値よりも実質的にはるかに小さく、大気揺らぎの補正に不十分であることが室内実験によって判明した。そこで改めて補償光学装置の再設計の必要になり、チリ国アタカマ高地にある miniTAO 望遠鏡に輸送して観測実験を行う時期を遅らせることにした。これに伴い、学術研究助成基金助成金の使用を抑制し、来年度の miniTAO 望遠鏡での観測試験に備えることとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
miniTAO 望遠鏡が適切な時期に運用されるようであれば、補償光学装置をとりつけて観測実験を行う。このための輸送費用、現地滞在費用などに使用する計画である。もし miniTAO 望遠鏡の運用が難しければ、国内のシーイング条件に合わせて補償光学装置の改良を試みる。このため、補正項数の多い可変形鏡の購入、補償光学装置の再設計と製作に関する費用に使用する予定である。
|