研究課題/領域番号 |
25287035
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山本 宏昭 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70444396)
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研究分担者 |
桑原 利尚 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (80648303)
福井 康雄 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30135298)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ダークガス / プランク / 太陽系近傍 / 分子雲 |
研究概要 |
Planck衛星によって導出された全天のダスト温度、光学的深さのデータと水素原子のデータとの比較を行った。分子雲が存在する高密度領域はマスクし、水素原子雲のみが存在する領域について解析を行った。ダストの光学的深さと水素原子の積分強度はダスト温度ごとに区切ることで、よい相関が得られることを発見した。特に高温ダストが存在する領域について、ダストの光学的深さと水素原子の積分強度は奇麗な比例関係にあることを明らかにした。高温ダスト成分の奇麗な比例関係は真に領域のガス・ダスト比を示していると考えられる。ダストの光学的深さは1よりも5桁から6桁小さいため、ダスト放射が飽和しているのではなく、低温ダストに付随する水素原子の積分強度が飽和しているとして、この高温ダストの比例関係に従うように、水素原子の積分強度を補正することで、水素原子の柱密度を導出した。この解析をまず5分角の分解能でMBM53, 54, 55領域、36分角の分解能で銀緯±10度以上の領域について行った。その結果分子雲の周囲には従来考えられていたよりも大量の水素原子雲があることを発見した。また、この解析手法から、水素原子のスピン温度と光学的深さの分布を明らかにした。この結果により水素原子の量はこれまでの見積もりよりも約1.5倍程度大きくなることがわかった。また、全天の解析において、今回用いた手法により導出した水素原子の柱密度から従来行われてきた水素原子が光学的に薄いと扱って導出した柱密度の差分はGrenier et al. (2005)によってガンマ線のデータから導出されたDark Gasの分布・量ともによく似た結果を得た。これらの結果を2編の論文としてまとめ投稿した。さらに解析領域を広げ、ペガスス座領域、オリオン座分子雲周辺領域においても同様解析を開始した。国内外の会議、学会にいて計16回の講演を行い、成果報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は1. 星間物質の定量、2. Planck CO地図との比較、3. Dark Gasの詳細分析の3つに分けられ、これらを総合して、高銀緯領域の全星間物質の定量を3年で行う計画である。初年度はNANTEN2サイトを襲った複数回の豪雪、受信機のトラブルにより200GHzのCO(J=2-1)輝線データをほとんど取得することができなかった。そのため、3のDark Gasの詳細分析を精力的に実施した。Planckのデータと水素原子のデータを用いた解析を行い、水素原子の柱密度を新たに導出した。高エネルギー放射の観測からDark Gasと考えられてきた、分子雲、水素原子雲の現在の観測ではトレースできないと考えられていたガス成分をこの補正によって説明できることを示した。解析領域も5分角の分解能でMBM53, 54, 55領域、ペガスス座領域、16分角の分解能でオリオン座領域、36分角の分解能で全天と多岐にわたっている。また、なんてん」の既存のCOのデータを使いつつ、順調に解析が進んでいる。 CO観測のトラブルがあったため、当初予定していた研究の展開順序について修正を加えつつ、研究を遂行してきた。本研究は3年計画であり、本研究達成度を100%としたとき、初年度に概ね30%以上は達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度ほぼ実施できなかったCOの観測を精力的に実施する。昨年度に比べ受信機雑音温度が3倍ほどよい受信機(観測効率で9倍よい)を製作できるめどがたったため、早期にインストールし、効率よく観測を実施することで、昨年度予定した観測を十分リカバーできる予定である。また、引き続きPlanck衛星のデータと水素原子のデータを用いた太陽系近傍の全星間ガスの分布、性質の解明に向けて作業・議論を実施する。初年度の解析結果をさらに吟味し、解析の精度を上げていく。また、COのデータも用いて低密度から高密度にわたる星間ガスの分布を明らかにする。現在解析に使用しているPlanckのHigh Frequency Instrumentsのサブミリ波のデータは観測期間30ヶ月のうちの前半15ヶ月のみの観測データである。今年度中には偏向データを含めて30ヶ月分のデータがリリースされる予定であり、このデータを用いることでさらに精度を上げた解析が実施できると期待される。現在の15ヶ月のデータでできる限り精度のよい解析方法を確立し、来る30ヶ月分のデータリリースに備える。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度NANTEN2を用いたCO輝線観測ができなかった。これをリカバーするために翌年度に精力的に観測を実施することとした。NANTEN2サイトは自前の発電機で電力を確保しており、観測時間を確保するためにはその分発電機を動かす燃料代が必要であるため。 次年度使用額として生じた分はすべて発電機の燃料代に使用する。翌年度予定した観測についても当初予定どおり燃料代を計上しているので、それと合算して使用する。
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