研究課題
今年度は、「①本研究で開発した可視光遮光フィルムをコーティングしたX線CCDを搭載したHitomi衛星のCCDの軌上の較正実験」と「②宇宙線に対する耐久性」について評価実験を行った。①はHitomi衛星には,本研究で開発した可視光遮光フィルム(OBL;Optical Blocking Layer)をコーティングしたX線CCD(SXI)を搭載しており,SXIの可視光遮光能ならびに、軌道上でのX線CCDの性能評価を行った。OBLの可視光遮光能については,軌道上で可視光遮光能評価用の較正天体の観測を行う前に,Hitomiの運用が停止となり定量的な評価ができなかったが,実際の観測天体のデータからは,衛星筐体からの光漏れの影響を排除した時間帯では,期待した可視光遮光能を発揮していることが分かった。SXIのX線に対する性能については,エネルギー分解能が5.89keVのX線に対し180eV程度であることが分かった。また本研究で評価したSXIの検出効率については、かに星雲の観測から,他の観測結果と明るさに関し矛盾ない結果であることが分かった。②は電荷転送非効率(CTI;Charge Transfer Inefficiency)を軽減させるノッチをつけたX線CCDを開発し,放射線医学総合研究所において放射線耐性の評価を行った。結果は,ノッチをつけていないSXIと比べ、ノッチの効果によりCTIが改善されることを実証した。以上①②の結果は現在投稿論文としてまとめている。また,本研究で新たに課題となったCCD素子にコーティングした可視光遮光用のアルミニウム層にピンホールが生じる問題の対策を進めた。これまでのところ,素子にOBLを製膜する方法を変更しピンホールが減少することが分かった。ただし,継時的に増加する点については、引き続き検証実験を進めており,本研究の研究期間を延長し継続する。
2: おおむね順調に進展している
今年度は,Hitomi衛星のSXIを用いて,軌道上でのOBLの可視光遮光能の実証実験を行った。可視光の遮光能についてはピンホールを除くと,期待通りの可視光遮光能を持つことが分かった。ただし、成膜時に生じたOBLのピンホールについては、衛星筐体の底面から予想外に漏れ込んできた観測天体以外(地球大気)からの可視光線が、OBLでは遮光できず、特にピンホールがあるピクセルは、可視光による暗電流が高くなり、観測データとして使用できないという問題が生じた。そこで、Hitomi代替機に向けてピンホールを可能な限り減らすことが必須となっている。そのため、本研究の研究期間を1年延長し,引き続きピンホールを抑える技術を確立させる。一方、CCD素子のX線に対する性能を向上させる技術として、CTIを抑えるノッチを付けた素子を新たに開発し、CTIが改善すること、放射線耐性も向上することを実証することができた。このノッチはHitomi代替機用のCCDに装備する。
研究期間を1年延長し,Hitomi代替機に装備するCCD用のOBLのピンホールを抑える技術を確立させる。既に,OBLを製膜させる方法については目途がたち、現在、ピンホール数が経時的に増加しないかモニターをしてる段階であり,技術の確立を急ピッチで行っている。また,CCD素子のX線に対する性能向上を目的として,ノッチを付けCTIを抑えること、素子のノードゲインを上げエネルギー分解能を向上させることをスタートさせており,本研究の最終年度である今年度中には、この2点の改良を施した試作品のCCDを製作することになっており,性能評価まで行う。
本研究で開発した可視光遮光膜(OBL)を装備したX線CCDをHitomi衛星に搭載した。開発段階からOBLにはピンホールが生じており、継時的に増加したことが分かっていた。そこで,HitomiではOBLと同じ素材の可視光遮光フィルムを、追加装備する対策を行った。そのため、可視光遮光能は維持したものの、一方で、X線にとっては不感層が増えることになり、2keV以下の軟X線帯域の検出感度が低下することになった。そこで、Hitomi代替機用に搭載するX線CCDでは、裏面照射型CCDの検出感度を最大限に引き出し、高感度の観測を行うために、追加のフィルムを使うことなく、ピンホールがないOBLを装備する。そのために、研究期間を1年延長し、ピンホールのないOBLの開発を完了させる。
すでに、OBLのピンホールの低減に向けて、蒸着スピードや薬液、蒸着パターンなど変えたOBLの試作品を製作している。その中で、薬液ならびに蒸着パターンをある方法にした場合、ピンホールが大幅に減少させることに成功した。ただし、ピンホールには、継時的に増加するという問題があり,今回ピンホールが少ない条件で成膜させたOBLについても、ピンホールの数を継時的にモニターする必要があり、現在もモニターを継続している。今回、成膜条件として絞り込んだ成膜方法で、ピンホール数の継時的増加も抑制できることができれば、今年度には、同一条件でOBLを成膜させたX線CCDの試作品を製作し、可視光遮光能を評価する。また、OBLのX線透過率も測定し、OBLを製膜させたX線CCDの検出効率の評価を行う。そこで、本研究予算でX線CCDの試作品を購入する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (19件)
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