研究課題/領域番号 |
25287046
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青木 慎也 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (30192454)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 核力ポテンシャル / 格子QCD / N体散乱 / 南部・ベーテ・サルペータ波動関数 / S行列 / 非弾性散乱 / 散乱位相差 / ユニタリ性 |
研究概要 |
本研究の目的は、最近提案されて成功を収めている、格子QCDを用いて核力ポテンシャルを求める方法を理論的に考察し、その応用の可能性を探ることである。具体的には、(1)N体の南部・ベーテ・サルペータ(NBS)波動関数が散乱S行列の情報を持つこと(2)ポテンシャルの方法を非弾性散乱の場合に拡張し、その非局所ポテンシャルが系のエネルギーに依存しないこと(3)核子ポテンシャルの方法をハドロンの弱い相互作用による崩壊現象を取り扱えるように拡張すること、である。研究がさらに進んだ場合、(4)拡張された(3)の方法を用いて、K中間子が2つのπ中間子に崩壊する行列要素を格子QCDで計算することも研究の目的にしている。 今年度は、まず(1)の課題に取り組み、N体系のNBS波動関数の漸近形を求めた。そもそもN体系のS行列の一般形をユニタリ性から決定する事は行われていなかったので、まず、その決定を行った。この場合、一般化された球面調和関数を使うと、2体の場合と同様に、一般化された位相差を使ってS行列の一般形が書き表せることが分かった。さらに、その表示を使うと、NBS波動関数の漸近形が決まり、そこに散乱S行列の情報が現れる事を、任意のNに対して示した。この結果は論文として発表された。 (2)のポテンシャルの非弾性領域への拡張の理論的な面に関しては、この研究費の申請から採択の期間の研究で完成した。したがって、本年度をそれを使った格子QCDの計算を中心に研究を行った。ストレンジネスが-2の2つのバリオン系はH粒子と呼ばれる束縛状態を含む可能性があるが、粒子の種類が変わる散乱が起こるため、一般には非弾性散乱になる。今年度は、新しい定式化をこの系に適応し、方法がうまく機能することを確かめた。この結果は、現在、論文として準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、本年度は、(1)及び(2)を行う予定であったが、(2)の理論的な部分に関しては、申請と採択の間の期間の研究でほぼ完成したため、予定より若干早く研究計画が進んでいる。ただし、本年度の残りの期間では、(2)の方法の数値計算への具体的な応用という、当初計画には無かった研究を加えたため、次年度に予定していた研究を前倒しで行う事はしなかった。そのため、達成度は「おおむね順調に進展している。」となった。(2)に関して理論的な研究だけでなく、それを具体的な格子QCDの計算に応用したことで、拡張した方法の妥当性や有効性が確認でき、研究の進展には非常に有用であった。
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今後の研究の推進方策 |
研究は計画度おおりに順調に進んでいるので、当初の計画通りに研究を進めて行く予定である。特に次年度は(3)として、核子ポテンシャルを、ハドロンの弱い相互作用による崩壊現象に拡張する事を行う予定である。また、その方法を数値計算と組み合わせた場合に必要となるテストを簡単な模型で試すつもりである。3年目の最終年度には、その方法を具体的なQCD計算に応用する事を考えている。それは、K中間子の2つのパイ中間子への崩壊の行列要素を格子QCDを用いて計算する事である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究員の雇用が遅れたため、その分の雇用のための経費が残った。また、雇用した研究員のために購入する予定であった計算機も、研究員が自分の研究費を持っていたため、不要となり、その分の経費が残った。研究員に使う旅費も同様の理由で残った。また、今年は研究活動の割合が多く、情報収集のための旅費の支出額が予定より少なかった。 1人雇用している研究員に加えて、短期雇用の研究員を1人雇用し、研究の進展をさらに推進させる。また、シンポジウムや研究会でのこれまでに得られた研究結果の公表や宣伝を図るとともに、2年目以降の研究のための情報収集、意見交換を行う予定であり、そのために海外旅費や国内旅費を使用する予定である。
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