研究課題
本研究は、低温で超安定光共振器(ファブリーペロー共振器)を実現しようとするものである。近年、光共振器の揺らぎの一つとして誘電体多層膜コーティングに起因する熱雑音が深刻であることがわかってきた。通常、超低損失コーティングとしてTa2O5とSiO2の交互層が使われているが、このうちTa2O5の機械損失が大きいからである。光共振器を極低温に冷却することにより、この熱揺らぎをかなり低減することが可能であるが、さらに技術開発が進めば、いずれこの熱揺らぎによって光共振器の性能が左右されることになる。それに備えて、主として低損失の誘電体多層膜コーティングを開発することを本研究の第一目的としている。この開発研究の結果、将来の重力波検出器の感度を向上することが可能となり、重力波天文学の推進にも貢献することになる。今年度は、サファイア薄板(円板)に誘電体多層膜をコーティングした測定サンプルの機械的Q値の常温から極低温までの測定値をまとめ、それを解析して論文発表した。この測定サンプルは国立天文台が保有するIBS装置(イオンビームスパッター装置)によってコーティングされたものである。現在、特にこの研究分野で話題になっているのは、極低温(絶対温度20度付近)において機械的Q値が低下するという現象で、これは低温レーザー干渉計にとって非常に大きな問題となる。したがって、この点に注意して測定を行ったが、我々の測定においてはそのような現象は確認できなかった。今後の研究においてもこの点に着目して測定を続け、もし極低温で機械的Q値が低下する現象が確認されれば、それを解決することをめざす。
2: おおむね順調に進展している
国立天文台特殊コーティング装置(イオンビームスパッタ装置)で製作した光学薄膜の機械的Q値を測定し、その結果をまとめて論文発表した。この一連のことにより本研究の第一段階を完了することができた。
他の重力波望遠鏡計画で使われているミラーをコーティングしている研究所に、機械的Q値測定のサンプル製作を依頼し、それを測定して、これまでの結果と比較検討する。
サファイア薄板へのコーティングを予定していたが、コーティング仕様について再考する必要が生じたため
サファイア薄板に施すコーティングの仕様を速やかに決定し、発注する。
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Physical Review D
巻: 90 ページ: 102004
http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevD.90.102004
http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/