研究課題/領域番号 |
25287057
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 直 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70222057)
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研究分担者 |
市來 淨與 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 助教 (10534480)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 宇宙磁場 / 構造形成 / 初期宇宙 |
研究実績の概要 |
本年度は、初期磁場が存在する場合に、宇宙での構造形成にどのような影響がでるかを中心に、研究を進めた。まず宇宙での晴れ上がり以降、最初期星形成の時期までの間に磁場が存在していれば、これまで我々が調べて来たようなローレンツ力による密度揺らぎの増幅が構造形成の時期を早める効果以外に、磁場のエネルギー散逸による、宇宙の熱史の改変が生じる可能性がある。エネルギー散逸による影響を将来の赤方偏移された中性水素の21cm線の観測で受かるかどうかを調べた結果、影響は非常に小さいスケールでのみ現れ、磁場の効果は、これまでのローレンツ力によるものが支配的であることがわかった。次に、磁場が存在している場合の電離したガス雲の重力収縮について、数値シミュレーションと解析的取扱いの両者によって詳しく調べる研究を行った。その結果、磁場によるガス雲収縮の阻害効果が、特に高赤方偏移で顕著であることを示し、ハローの存在量についての予想を示した。続いて、昨年度も注目した、磁場を生成する可能性のある密度揺らぎのベクトルモードについて、最新の宇宙マイクロ波背景放射の偏光のBモード(パリティが奇の成分)の観測を用いて制限する研究を行った。このBモードは、初期揺らぎ起源のものが、観測的に見つかったという報告があり大いに注目を集めたところであった。Bモードに関しては、重力波成分に対する制限・測定も得られることから、将来における重力波直接観測の予測も行った。 一方で、これまで我々は密度揺らぎの2次摂動から、磁場が生成されるというシナリオを提案してきている。本年度は、この2次摂動をすべての項をきちんと入れて解くための準備を行った。その課程で、ガスやニュートリノ流体の非等方圧力の2次揺らぎが、重力波成分を生成することに注目し、先のBモード偏光の観測結果と比較を行う研究をまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究の目的」では、宇宙磁場について、その起源と、その存在が宇宙論に及ぼす影響について検討を行うものとある。実際に、今年度は、宇宙論、とくに宇宙での構造の形成に及ぼす影響、例えば、銀河ハローの形成への影響、またその結果、宇宙の熱史をどのように改変するのか、などに関して、査読付き欧文学誌に2本発表を行った。 また、次の「研究の目的」として、我々が考案した密度揺らぎの発展に伴って磁場が生成される機構について詳細な理論的検討を加えるとある。これについては、密度揺らぎの2次の効果として現れる当該機構について、1次の積としての2次揺らぎはこれまで調べられてきた。そこで、平成26年度は、これまではその計算の困難さから検討されてこなかった、2次独自の項を詳細に求め、その完全な定式化に成功した。その結果は、平成26年度は、次に述べる重力波成分の揺らぎの解析として発表したが、磁場については、平成27年度に発表する予定である。 最後の目的としてあげてあるのが、宇宙磁場の宇宙マイクロ波背景放射への影響であるが、これについては、Bモード偏光の発見という観測結果を受けて、2次揺らぎからの効果や、密度揺らぎのベクトルモードからの影響などを詳細に調べる研究を実行し、査読付き欧文学誌に合計3本、関連する研究成果の発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるので、これまで準備した研究をまとめ、論文発表を進めることを予定している。とくに、我々の提唱している2次密度揺らぎからの自然な磁場生成の機構について、これまで計算の困難から見落としていた2次独自の項も含めた総括的な取扱いが、前年度までに可能となっていることから、平成27年度は、初期磁場の発展を膨張宇宙において数値的に計算し、磁場のスペクトルを求める予定である。得られた結果は、これまでの限定的に2次揺らぎを取り入れた場合の結果と比較し、2次独自の項の役割について検討も行う。 また、赤方偏移した中性水素の21cm線観測について、いよいよオランダのLOFARチームがその観測成果を発表する予定である。その結果を受けて、初期磁場の及ぼす影響を見積もり、それに対する新たな制限を得ることも予定している。 さらに、宇宙の構造形成に対する影響や、宇宙マイクロ波背景放射の偏光などに対する影響も、新たな観測結果に注目しつつ、平成26年度に引き続き検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本補助金で雇用を行っている研究員に対する人件費に関して、確定が年度末ギリギリとなる。給与が払えない、という自体を避けるために、あえて残が出るように予算立てを行った。実際には超過勤務などがなく、結果として、予算のすべてを執行することはできなかった。また、年度末の旅費の執行を一部減額して行ったこと、消耗品として購入予定であったコンピュータ関連装置の新製品発売時期がずれ込んだことなどが、次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は最終年度でもあることから、旅費等については、出来るだけ早めに確定し、残が出ないように着実に執行をしていく。備品や消耗品なども、年度末には執行をしない予定であるため、次年度使用額は生じない見込みである。
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