研究課題/領域番号 |
25287058
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超弦理論 / AdS/CFT対応 / 量子エンタングルメント |
研究概要 |
平成25年度の本研究の主なテーマは励起状態のエンタングルメント・エントロピー(EE)の性質の解明であった。このテーマに関して計7本の論文を出版した。まず、エネルギー流が定常的に存在する共形場理論(CFT)におけるEEをAdS/CFTを用いて解析し、流れの方向と部分系の取り方の選び方によっては相転移が生じることを明らかにした。局所クエンチと呼ばれる局所的な励起状態をAdS/CFT対応でどのように実現するのかに関して簡単なモデルを与え、EEの振る舞いを計算した。これによって、より広いクラスの局所クエンチにたいしてもlog的に増加することが明らかになった。また、CFTの小さな励起状態の普遍的な性質を理解するために、AdS/CFT対応を用いた解析を行い、重力場のアインシュタイン方程式から導かれるEEに対する束縛条件を求めた。これによって、エンタングルメントのダイナミクスが重力理論のダイナミクスにどのように対応するのかが明らかになった。さらに、局所的な演算子で与えられる励起状態に関して、自由場の理論で具体的な解析を行い、結果として、光速の励起の伝播という描像でEEを解釈できることが分かった。 場の理論のEEの解析は、現在までに非常に多くの研究はなされているが、非局所的な場の理論に対する結果はほとんど知られていない。しかしながら、反ドジッター時空(AdS時空)ではなく、平坦な時空のホログラフィーを考えると、そのような非局所的な場の理論が双対の量子理論として現れることが予想されている。またホログラフィックな解析をすると通常の面積則ではなく体積則がかなり普遍的に導かれる。そこで、体積則が非局所的な場の理論を考えると本当に導かれるのかという疑問が生じる。そこで、スカラー場の理論に対して具体的に解析を行い、指数関数的な非局所性があれば体積則が生じることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エンタングルメント・エントロピー(EE)の励起状態に関して、思ったよりも多くの興味深い現象や法則を発見することができたため。たとえば、定常カレントが流れている系のEEの相転移現象、局所クエンチのAdS/CFT対応による記述、アインシュタイン方程式のEEを用いた解釈、非局所的場の理論におけるEEの体積則、を見出すなどした。それらの結果、業績として、7本の論文を当該年度に出版でき、その中の一つはPhysical Review Letterに掲載された。また、研究代表者はその成果が評価され、2013年度は、超弦理論の最も権威のある国際会議strings2013や、一般相対論の最も権威ある国際会議GR20、また大規模な素粒子論の国際会議PASCOSなどのPlenary講演者として招待された。また、イタリアのトリエステの超弦理論のスクールや、ドイツのArnold Sommerfeld スクールなど、メジャーなスクールにおける講師に招待されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の一つの方向性は、さらに励起状態の性質について解析を進めることである。特に局所的な演算子による励起状態のエンタングルメント・エントロピー は、重要な課題であるにもかかわらず、現在の理解は中途半端なので完全に性質を解明したい。特にAdS/CFT対応の古典重力極限が成り立つような強結合ゲージ理論の局所演算子の励起状態のEEがどのように振る舞うのか明らかにする必要がある。その一つの解析手段として、Renyiエントロピーと呼ばれるEEの拡張を考え、レプリカ法の相関関数として表すことが思いつく。これをAdS/CFT対応の測地線近似で計算することが可能と考え、この計算結果を弱結合の結果と比較すると興味深い物理的解釈がえられるのではないかと思われる。 また、基底状態のEEにおいて、未だ解決されていない問題としてゲージ理論のEEが本当に不定性なしに定義できるのか?という問題がある。この問題を、log的に発散する項などのように係数が普遍的に振る舞うことが分かっている寄与に着目して調べたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が8万円弱生じた理由は、本年度、研究代表者と共同研究を行い、数値計算などのサポートをする目的で雇用した研究員の着任が1月程度遅れたためである。着任時期に不定性が生じたのは、研究員が博士号を取得する時期に、予想されていたものと少しずれが生じたからである。それとは逆に、研究代表者が、予想よりも多くの研究会に招待されたので、その分旅費が多少増え、両者が一部キャンセルして、8万円程度の剰余となった。 この8万円弱の次年度使用額は、現在雇用している研究員が成果発表する際の旅費として利用する予定である。昨年度の時点の科研費の使用計画では、その研究員には20万円程度の研究費を割り振ることができないと考えていたが、それを増額することで、国外出張による研究発表も可能となり、大変有意義である。
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