• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2014 年度 実績報告書

エンタングルメント・エントロピーを用いたAdS/CFT対応の解析

研究課題

研究課題/領域番号 25287058
研究機関京都大学

研究代表者

高柳 匡  京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード超弦理論 / AdS/CFT対応 / 量子エンタングルメント
研究実績の概要

本年度の研究では、主に局所的な励起状態のエンタングルメント・エントロピーの解析に関する研究を行った。共形場理論を考え、局所的な励起状態をプライマリー場を真空に作用して定義し、レプリカ法を用いてエンタングルメント・エントロピーを場の理論の計算で求めることができる。
まず、AdS/CFT対応に現れるラージN極限の共形場理論に対して、局所的な励起状態のエンタングルメント・エントロピーの解析を行った。自由場のラージN極限の場合に具体的に計算を実行し、レンニエントロピーはO(1)の値になるが、フォンノイマンエントロピーがO(logN)のようにエンハンスされることを見出した。つまりレプリカ数nに対してn=1で相転移のような現象が存在することが分かった。
また、ラージN極限の強結合の共形場理論を場の理論とAdS/CFT対応の双方で計算し、両者が一致することを確かめた。自由場理論では、エントロピーはある有限な量だけ増加することが分かっているが、相互作用の強いホログラフィックな共形場理論では、時刻tとともにlog[t]に比例する形で単調に増加することを明らかにした。
以上は絶対零度の共形場理論を考えていたが、有限温度の場合に、局所的な励起状態を考えるとどのようにエンタングルメント・エントロピーが増加するのか理解することは、AdSブラックホールの物理と関係しており興味深い。この対応関係を詳しく調べ、エンタングルメント・エントロピーは最初はlog[t]のように増加するが、時刻が温度の逆数より大きくなると一定値に近づくことが分かった。
またそのほかの研究成果として、量子状態と時空の曲面の対応関係の理解を深めることができた。これはテンソルネットワークによるAdS/CFTの解釈を発展させたもので、ホログラフィー原理を一般化するアイデアであり、今後の大きな発展が有望である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

前述のようにまず本年度では、前年度にスタートさせた局所的な励起状態のエンタングルメント・エントロピーの計算を様々な共形場理論に関して遂行することができた。また現在雑誌に投稿中のプレプリントarXiv:1412.5606では、励起状態のエンタングルメントエントロピーを空間領域の大きさで二回微分することでエンタングルメントの密度と解釈できる量を抽出できることが分かった。この量は強劣加法性というエンタングルメントの基本的な性質から正であることも分かる。さらに、AdS/CFT対応を適用するとこの量が、重力理論の時空のエネルギー運動量テンソルのヌル成分の積分と解釈することができた。とくに物質場が存在しない3次元重力理論では、このエンタングルメント密度がゼロであることと、真空のアインシュタイン方程式は等価であることを見出した。
このような励起状態に関する研究を当初期待していたが、予想よりも計算が早く進み、
さらに根源的な研究テーマを掘り下げる余裕を得た。量子エンタングルメントのすべての性質を一度に扱う方法としてテンソルネットワークという手法が知られており、AdS/CFT対応との関連も予想されている。プレプリントarXiv:1503.03542と1412.6226ではこの方面の研究を大きく発展される成果を得た。AdS/CFT対応に限らず一般の重力理論に対して、時空を量子エンタングルメントの集合体として表すことができると予想され、そのことから重力理論の時空の任意の凸曲面と量子多体系の量子状態に対応関係が成り立つことが分かった。またそのほかに、超弦理論のエンタングルメントエントロピーの解析arXiv:1412.5606も行った。このように、当初の予想を超え、他の別の興味深い研究成果も本年度に得ることができ、大変有意義であった。

今後の研究の推進方策

今後の研究では、本年度に新たに発見した、重力理論の時空の曲面と量子多体系の量子状態の対応関係に対してより詳しく掘り下げたい。とくに二つの曲面の間の幾何学量と対応する量子状態間の情報理論的距離に関して対応関係が予想されており、場の理論で具体的に距離を計算することでこの関係を確立したい。また、この対応関係では理想的なテンソルネットワークの存在を仮定しており、そのようなネットワークを具体的に構成し、連続極限をとることも大変重要な考察すべき課題である。時空の曲面上の外曲率とテンソルネットワークの振る舞いの間に重要な関係があることが予想されており、具体的な量子多体系の計算を行うことで解析を行いたい。また、重力理論の時空がドジッター時空のように境界を持たない空間の場合は、AdS/CFT対応とは異なりホログラフィー原理の適用法がよくわかっていないので、大変興味深い。我々の新しい対応関係がどのような新しい知見をドジッター時空に対してもたらすのか明らかにしたい。
また、本年度からさらに継続して励起状態のエンタングルメント・エントロピーの解析も行いたい。特に高次元の局所的な励起状態に対しては、知られていることは決して多くなく、たとえばAdS/CFT対応における計算も不十分である。高次元でも2次元の場合のようにlog[t]のように時間とともに増加するのかどうか、微分幾何学的な数値計算を実行することで調べたい。
また運動量テンソルを局所的な演算子と思った時の励起状態を考えると、部分系Aを変形することと等価である。部分系の形を変形した場合のエントロピーの変化はエンタングルメント密度の計算と等価である。AdS/CFT対応の計算結果はすでに得られているので、一致するのかどうか確かめたい。

次年度使用額が生じた理由

今年度は12万円弱ほど助成金が未使用となった。その理由は2015年2月のマドリードで行われた研究会で私が招待講演を行う際に、当初は航空券代を当科研費から支出する予定であったが、その後主催者側から旅費もサポートしたいという申し出があったため、当科研費から航空券代を支出する必要がなくなったからである。

次年度使用額の使用計画

つい半年前に、東北大で国際研究会``Strings, Black Holes and Quantum Information''を2015年9月に開催することが決まり、私もその世話人の一人として加わることになった。そこで、その研究会の私の旅費として、12万円弱を利用することを計画している。この研究会には、本研究課題に関する外国人著名研究者が複数参加する予定であり、研究代表者の研究成果の宣伝や、参加者との議論を通じで研究内容を掘り下げることに大いに貢献すると期待される。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 9件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Quantum Entanglement of Localized Excited States at Finite Temperature2015

    • 著者名/発表者名
      P. Caputa, J. Simon, A. Stikonas and T. Takayanagi
    • 雑誌名

      Journal of High Energy Physics

      巻: 1501 ページ: 102

    • DOI

      10.1007/JHEP01(2015)102

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Quantum dimension as entanglement entropy in two dimensional conformal field theories2014

    • 著者名/発表者名
      S. He, T. Numasawa, T. Takayanagi and K. Watanabe
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 90 ページ: 041701

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.90.041701

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Entanglement between Two Interacting CFTs and Generalized Holographic Entanglement Entropy2014

    • 著者名/発表者名
      A. Mollabashi, N. Shiba and T. Takayanagi
    • 雑誌名

      Journal of High Energy Physics

      巻: 1404 ページ: 185

    • DOI

      10.1007/JHEP04(2014)185

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Entanglement of local operators in large-N conformal field theories2014

    • 著者名/発表者名
      P. Caputa, M. Nozaki and T. Takayanagi
    • 雑誌名

      Progress of Theoretical and Experimental Physics

      巻: 9 ページ: 093B06

    • DOI

      DOI: 10.1093/ptep/ptu122

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] Entanglement Entropy of Locally Excited States2015

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      Simons Symposium on Quantum Entanglement
    • 発表場所
      Rio Grande, Puerto Rico, USA
    • 年月日
      2015-03-15 – 2015-03-21
    • 招待講演
  • [学会発表] A proposal for Surface/State correspondence from quantum entanglement2015

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      Entangle This: Space, Time and Matter
    • 発表場所
      IFT, Madrid, Spain
    • 年月日
      2015-02-16 – 2015-02-20
    • 招待講演
  • [学会発表] Time Evolution of Entanglement Entropy for Locally Excited States2014

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      NCTS Program on Topological Aspects of Quantum Matter
    • 発表場所
      Hsinchu, Taiwan
    • 年月日
      2014-12-08 – 2014-12-12
    • 招待講演
  • [学会発表] Entanglement Entropy and Spacetime Geometry2014

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      20th European Workshop on String Theory
    • 発表場所
      Mainz, Germany
    • 年月日
      2014-09-22 – 2014-09-26
    • 招待講演
  • [学会発表] Entanglement Renormalization for General CFTs2014

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      Workshop: `Quantum Information in Quantum Gravity'
    • 発表場所
      UBC, Canada
    • 年月日
      2014-08-18 – 2014-08-22
    • 招待講演
  • [学会発表] Holographic Spacetimes from Entanglement Renormalization2014

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      YITP Workshop on Quantum Information Physics (YQIP2014)
    • 発表場所
      Kyoto, Japan
    • 年月日
      2014-08-04 – 2014-08-07
    • 招待講演
  • [学会発表] Holographic Entanglement between Two Interacting CFTs2014

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      Aspen Summer Workshop: Emergent Spacetime in String Theory
    • 発表場所
      Aspen, USA
    • 年月日
      2014-07-06 – 2014-08-03
    • 招待講演
  • [学会発表] Time evolution of entanglement entropy for local operator excitations in conformal Field Theories2014

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      Conference on Non-equilibrium Phenomena in Condensed Matter and String Theory
    • 発表場所
      Trieste, Italy
    • 年月日
      2014-06-30 – 2014-07-04
    • 招待講演
  • [学会発表] Quantum Entanglement and Local Operators2014

    • 著者名/発表者名
      T. Takayanagi
    • 学会等名
      Strings 2014
    • 発表場所
      Princeton, USA
    • 年月日
      2014-06-23 – 2014-06-27
    • 招待講演
  • [図書] 臨時別冊・数理科学 SGCライブラリ 106 「ホログラフィー原理と量子エンタングルメント」2014

    • 著者名/発表者名
      高柳 匡
    • 総ページ数
      176
    • 出版者
      サイエンス社

URL: 

公開日: 2016-06-01  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi