研究課題/領域番号 |
25287059
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
水野 恒史 広島大学, 宇宙科学センター, 准教授 (20403579)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 宇宙物理(実験) / X線ガンマ線天文学 / 偏光 / 粒子加速 / コンパクト天体 |
研究実績の概要 |
2013年7月に打上げたPoGOLite気球実験は、残念ながらフル観測には至らなかったが3日間の科学観測と、2週間あまりの動作実証に成功し、論文化を目指し解析を進めている。また2016年夏の再放球を予定しており、バックグランドを下げて感度を高めるため、回収した検出器の改修・改良を進めている。 ASTRO-H衛星搭載SGD検出器は、フライト品の製作・試験を進めた。特に偏光観測には光子統計が必要であり、150 keV以下の感度が重要となる。このエネルギー帯で視野を絞り、高い感度を実現するコリメータ装置のフライト品受入試験を完了させ、またSGD検出器に組み込んでアライメント調整を行った。2014年前半までの成果は論文(Mizuno et al. 2014, proc. SPIE 9144, 91445F)として出版した。並行して、主要要素での単体熱歪み試験、振動試験も行い、設計を検証した。また打ち上げ後の観測戦略や期待される成果について詳細なシミュレーションを元に検討し、White Paper(Copp, Mizuno et al. 2014, arXiv:1412.1190; Miller, Mizuno et al. 2014, arXiv:1412.1173)として公表した。関連して、現行の「すざく」衛星を用い、GeVガンマ線で発見されたCygnus cocoonと呼ばれる系内の宇宙線粒子加速天体をX線でフォローアップ観測し、電子シナリオに制限をつけた。この成果は国際会議で発表し(Mizuno et al. 2014, Fermiy Symposium@Nagoya, Japan)、投稿論文も受理された。 将来装置の開発では、小サイズのプラスチックシンチレータとPPDを組み合わせ、様々な条件下で性能評価を行った。10 keV程度までエネルギースレッショルドを下げることに成功し、また目標(2-3 keV)を実現するための改良点の指針も得た。この成果は2014年秋の日本天文学会で発表した(中岡、水野他)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PoGOLite気球実験は、2週間という長時間フライトを成功させた。残念ながらフル観測には至らなかったが、3日間余りの科学観測を行い論文化を進めている。ASTRO-H衛星搭載SGD検出器のコリメータ装置は、全てのフライト品の製作・受入試験をすませ(論文出版済)、アライメント調整も精度よく行った。打上げはやや遅れているが2015年度末に予定されている。加えて打上げ後の観測戦略・期待される成果についても検討し(White Paperとして公表済)、また現行の「すざく」衛星を用いた系内粒子加速現象の探査も行った(論文受理済)。シンチレータとPPDを組み合わせた将来装置の開発では、10 keV程度までエネルギースレッショルドを下げることに成功し、まだ目標(2-3 keV)には届いていないが改良の余地はあり、試験を進めている。これらを勘案すると、当初計画を完全には実現できなかったものの、概ね順調とみなすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
PoGOLite気球実験は既にフライトデータを取得しており、これを論文化する。ASTRO-H衛星搭載SGD検出器は、フライト品と同等の構成の予備品を用い、放射光施設を用いた偏光キャリブレーションを行う。また現行の「すざく」による、TeVガンマ線天体(宇宙線加速天体)のX線観測を昨年度末に行っており、そのデータ解析と論文化も行う。プラスチックシンチレータとPPDを組み合わせた将来装置の開発では、これまでの試験を踏まえ読み出し速度の向上やコインシデンス法の採用などにより、目標である2-3 keVのエネルギースレッショルドの実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画に対して、シミュレーション用計算機に予定していた費用を既存の設備を有効活用することで抑えることができた。またSGD検出器の製造およびASTRO-H衛星の打ち上げ延期に伴い、放射光施設でのキャリブレーション試験も遅らせたため、実験費用を次年度に回すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究実績の概要および今後の推進方策で述べたように、ASTRO-H衛星搭載SGD検出器の開発およびPPDを用いた将来装置の開発のいずれも、概ね計画通りに進んでいるが若干の積み残しがある。PoGOLite気球実験のフライトデータの論文化も今後の課題となっている。そこで本年度の当初予定予算に加えこの次年度使用額を有効活用し、課題を解決していく。具体的にはPoGOLite気球実験の論文化(投稿料、成果発表旅費など)、PPDを用いた将来装置の開発(読み出し回路の高速化や、コインシデンス法のための機器購入費、成果発表旅費など)、SGD予備品による放射光を用いたキャリブレーション試験(加速器施設利用料、実験機器、実験旅費など)に充てる。
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備考 |
ASTRO-H SGDによる偏光観測について検討しWhite Paperとして公表(Coppi, Mizuno et al. 2014, arXiv:1412.1190およびMiller, Mizuno et al. 2014, arXiv: 1412.1173)
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