QCDラグランジアンのCP対称性は、QCDの非摂導真空構造(θ真空)を色濃く反映している。θ真空の位相値は、元来、任意でよいにも関わらず、実世界では極めて良い精度でゼロとなっている。このため自発的に位相値をゼロに収斂させる機構が必要となる。アクシオン場はこのために導入されたPeccei-Quinn対称性の破れに伴う質量ゼロの南部・ゴールドストンボゾン(NGB)である。アクシオン場は、擬NGB化を通じて質量を持ち得るが、その質量によっては暗黒物資の有力な候補と成り得る。これまでレーザーと静磁場を用いてアクシオンの生成・崩壊を観測する手法や太陽内で生成されるアクシオンを地上の磁場を用いて崩壊させる方法を常套手段として探索が行われてきた。本研究では、真空中で2色のレーザー光を集光し、真空起因の四光波混合光の観測により、軽い暗黒物質源となり得るアクシオンの地上探索を実施した。 これまでに構築した真空容器内のレーザー集光系において、生成用光波(800nm)と崩壊誘導用光波(1064nm)のレーザーを同軸上で混合し、真空内四光波混合光の探索を実施した。その際、研究分担者が運用するレーザーシステムで得られる生成用レーザー光強度を2段階に用いて探索を試みた。比較的弱い初段階のレーザー強度による探索では、真空内四光波混合光が統計的に有意に見出されなかった結果を得た。この結果から、アクシオン場と光子との結合に対する上限値を、アクシオン場の質量の関数として見積り、論文として出版することに成功した。初段階の探索システムにより、残余原子起因の背景光の圧力依存性の定量化にも成功した。その結果、2段階目の最高強度レーザーによる探索には、真空系の根本的なアップグレードが必須であることが判明した。これらの経験を通じて、背景光の抑制方法の確立とその実践のために必要とされる研究課題を具体化することに成功した。
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