我々は昨年度、断熱型自己無撞着集団座標法(ASCC法)により、2つのアルファ粒子散乱の反応経路、ベリリウム8の核分裂経路、及び散乱の集団慣性質量を核子自由度から決定することに成功し、アルファ・アルファ散乱の位相のずれを計算した。今年度は、これをさらに発展させ、より重い系への適用に成功した。その一つは酸素16の原子核同士の衝突問題であり、離れた2つの酸素の原子核からスタートして、核融合して硫黄32の原子核に至る反応経路を決定した。この経路は硫黄原子核の基底状態には到達しないが、大きな変形をもつ超変形状態に至ることが確認された。同時に散乱の慣性質量を自己無撞着に決定した。2つの原子核が接触後に質量が増大し、特に、超変形状態を通過してさらにコンパクトな形状になる過程では、急激な増加が示唆される。これは、もはや2つの酸素原子核間の距離が集団座標として適切でなくなっていることを意味している。また、アルファ粒子と酸素の原子核の融合・散乱反応についても同様の解析を行なった。こちらは、非対称な反応であり、最終的にはネオン20の原子核の基底状態に至る反応経路が導出された。ネオン原子核の基底状態はプロレート型(ラグビーボール型)に変形しているが、洋なし型の変形を伴う八重極振動励起が低エネルギーに現れ、このモードに沿った運動がアルファ・酸素の反応経路に一致することが確かめられた。これらの得られた反応経路と集団慣性質量を用いて、核融合反応断面積、天体物理S因子を求めることができた。さらに、密度汎関数がカレント密度に依存する場合に、集団質量のクランキング公式との比較を行い、慣性質量に大きな影響があることが分かった。昨年度、建物の耐震改修作業による研究室の一時待避等のため、この研究についてのみ研究期間を延長してこららの成果を得た。現在論文を1本投稿中、別の1本を準備中である。
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