研究実績の概要 |
走査透過型電子顕微鏡(Scanning transmission electron microscopy)法と収束電子回折(Convergent-beam electron diffraction: CBED)法を組み合わせて,格子歪み・分極・静電ポテンシャル等の局所変化を2次元分布として計測できる新たな手法(STEM-CBED法)の開発と応用を行った.本年度は新たに対称性破れ指数(symmetry-breaking index)を用いて対称性を定量評価し,ナノスケールで対称性破れ領域をマッピングするための汎用プログラムを開発した. STEM-CBED法を適用してBaTiO3の常誘電立方相における局所構造を調べた.その結果,常誘電相においてすでに立方晶対称性が破れているナノスケールの局所領域が現れることを明らかにした.これは,強誘電相への相転移前駆現象として,常誘電立方相においてもナノサイズの分極クラスターが存在していることを直接観察することに初めて成功したものである.強誘電-常誘電相転移点直上ではほとんどの領域で立方晶対称性が破れているが,試料温度を上昇させると立方晶対称性を示す局所領域が増加し,バーンズ温度付近の600K程度では試料のほとんどの領域が立方晶対称を持つことを示した.また,8サイトモデルをもとにして,新たに立方晶相の空間階層構造モデルを提案した.このモデルにより,これまで種々の実験・理論から報告されていた2つの異なる局所構造の対称性が,実験プローブの見る相関距離の違いにより説明できることを示した. これら成果について,国際会議Microscopy and Microanalysis 2015 (Portland, OR, USA)における招待講演等で発表した.
|