研究課題
基盤研究(B)
シリコン(Si)表面にタリウム(Tl)を1原子層(ML)吸着させると、TlはT4サイトに吸着してTl/Si(111)-(1×1)構造となり、その表面電子バンドはスピン軌道相互作用と表面垂直方向の空間反転対称性の破れによるラシュバ効果のためスピン偏極している。通常のラシュバ効果によるスピンの方向は表面平行で波数に垂直であり、偏極度が100%にならない。我々は以前の研究でTl/Si(111)-(1×1)の表面ブリルアンゾーンのK点で電子スピンが表面垂直方向を向き、偏極度が100%であること、またそれらの原因がこの点におけるC3対称性であることを報告した。本年度はまずスピン分解逆光電子分光によってこの表面のK点における非占有状態の電子スピンも占有状態と同様100%偏極して表面垂直方向を向くことと、非占有状態での分裂幅が占有状態のものよりもはるかに大きいことを明らかにした。また光エネルギーを変えながらスピン分解光電子分光測定を行うことにより、Tl/Si(111)-(1×1)にTlをわずかに吸着させて電子をドープした試料において、電子バンドが高結合エネルギー側にリジッドにシフトし、K点において100%スピン偏極した金属的なバレー構造が形成されることを明らかにした。この結果と走査トンネル顕微鏡を用いた準粒子干渉パターンの結果から、金属的なバレーが電子スピンの散乱方向を制御するフィルターの役割をすることがわかった。またナノスケールでスピンのフィルターとして機能するスピン偏極バレーがマクロスケールでのスピン伝導と電気伝導にどのように寄与するかを調べることを目的にマイクロ多端子プローブ測定装置を設計・製作した。本装置はマイクロ12端子プローブと表面電気伝導測定用駆動機構モジュールを備えており、プローブ間隔に依存した伝導の様式から表面スピン・電気伝導を議論することが可能である。
1: 当初の計画以上に進展している
交付申請書に記載した、表面電気伝導測定用駆動機構モジュールを備えたマイクロ多端子プローブ測定装置の設計・作製は年度内に完了した。また、スピン・角度分解光電子分光およびスピン分解逆光電子分光により、金属的なスピン偏極バレーバンドを有する電子ドープされたTl/Si(111)-(1×1)表面のスピン偏極占有電子状態だけでなく、スピン偏極非占有電子状態ももとめることに成功した。予定していたTl/Si(110)の研究を完結することはできなかったが、この非占有状態をもとめたことは当初の計画以上の進展である。
マイクロ多端子プローブ測定装置を既存の真空装置に取り付け、光電子分光と伝導測定が同一試料で行えるようにする。スピン・角度分解光電子分光により、擬一次元ラシュバスピン構造を有するTl/Si(110)-(1×1)表面上や、BiやPbを吸着させたSi(111)、Si(001)とSi(110)表面など、重元素吸着半導体表面やバレー構造が期待できるトポロジカル絶縁体などのスピン偏極電子構造と、走査トンネル顕微鏡により準粒子観測によりそれらの表面でのスピン流に関する知見を得る。真空中でイオン液体を蒸着できるようなシステムを構築し、バレーによってスピン流が制御できる系でのデバイス化を目指す。
マイクロ多端子プローブ測定装置の設計・製作に時間を要し、予定よりも納入が遅くなったためマイクロ12端子プローブの購入金額が予定していたものより少なくなったため。マクロスケールでのスピン伝導と電気伝導の測定に不可欠であるマイクロ12端子プローブの購入。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
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http://surfnanophys.adv.chiba-u.jp/Welcome.html