研究課題/領域番号 |
25287071
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
生嶋 健司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20334302)
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研究分担者 |
好田 誠 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00420000)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 量子ホール効果 / 量子ドット / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、強磁場中2次元電子系(2DES)で実現される量子ホール端状態を注入電流とした点光源と単電子制御による量子ドット単一光子検出器を利用して、固体上の電磁場を発生から伝送・検出まで完結して制御するオンチップ量子光学系を構築することである。特に本研究では上記点光源と量子ドットの結合状態の制御に焦点を合わせ、THz共振器等を用いてエッジ注入光源の光子エネルギーを特定する。
まず、端状態から発生したTHz波をコプレーナ導波路を用いて量子ドットに伝送し、単一光子計測に成功した。ここで新たな問題として、発光閾値電圧が当初予定のサイクロトロンエネルギー(ランダウ分裂間隔)よりも2割程度ずれていることである。これは、増大したスピン分裂の可能性が示唆され、その場合、スピン自由度を含めた発光過程の理解が要求される。次に、端状態からのTHz発光の光子エネルギーを特定するために、上記THz点光源と量子ドットをスプリットリング型のTHz共振器で結合し、単一光子分光を行った。その結果、端状態を注入電流とした点光源から発生するTHz波の光子エネルギーは発光閾値電圧近傍では、その閾値電圧に相当する光子エネルギーをもつことが示された。さらに、IV特性の詳細な結果から、発光閾値電圧のサイクロトロンエネルギーからのずれの原因は、端状態におけるスピン分裂の増大として説明できることを示した。これらの結果は、スピン偏極した非平衡端状態において、スピンフリップサイクロトロン発光が生じていることを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画どおり、端状態と量子ドットの結合状態を制御することにより、端状態を注入電流とするTHz発光の光子エネルギーの特定、および単一光子レベルでのTHz波の基板上閉じ込めに成功した。その結果、端状態を注入電流とした点光源から発生するTHz波の光子エネルギーは、発光閾値電圧近傍ではその閾値電圧に相当する光子エネルギーをもつことが示された。また、詳細なIV特性の分析結果から、発光の閾値電圧のサイクロトロンエネルギーからのずれの原因は、端状態におけるスピン分裂の増大として説明できることを示した。これらの結果は、スピン偏極した非平衡端状態において、スピンフリップサイクロトロン発光が生じることを強く示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
ランダウ準位間におけるスピンフリップ遷移は角運動量保存則の観点から本来禁制であり、極めて興味深い。スピンフリップを伴うランダウ準位間光学遷移は一般に禁制と考えられているため、理論的な考察が必要である。通常のスピン-軌道相互作用(ラシェバ、ドレッセルハウス項)を考慮すると、スピンフリップを伴うランダウ準位間光学遷移確率はほとんどゼロである。一つの可能性として、端状態のドリフト速度変化に伴うスピン-軌道相互作用があげられる。これの端状態特有のスピン-軌道相互作用は、最低ランダウ準位における端状態間スピンフリップ過程を説明してきた。今後、このドリフト速度変化により誘起されるスピン-軌道相互作用とランダウ準位間光学遷移過程の可能性について理論的に検証する。また、スピン-軌道相互作用の強いInGaAs系2DEG系の量子ホール効果の振る舞いも合わせて考察する。
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備考 |
IKUSHIMA GROUP http://web.tuat.ac.jp/~ikushima/index_j.html
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